桃百合黒漆 −モモユリクロウルシ− 潜

第一桂　：　俺の仕事と俺の現状 ページ4

―――俺の仕事は変わっている。
名目は「審神者」だが、基本的に政府施設からは出ない。
本丸も持たず、政府から直接依頼を受けた時だけ、俺は各所へと派遣される。
近侍は江雪左文字。
彼は任命された際に鍛刀して以来、ずっと傍に居てくれている。

例えば、あまりの横暴さに審神者業をはずされた、審神者不在の本丸へいき、
例えば、審神者が検非違使や歴史修正主義者に殺されてしまった本丸に行く。

例えば、その身勝手さ故、
ブラック企業と化した本丸の、その審神者の再指導に向かう。

――――俺の仕事は変わっている。
俺はそんな本丸に派遣されて、
審神者再指導や審神者再任命までの間、
―――新たな審神者が来るまでの間、
ただひたすらにそんな本丸の可哀想な刀剣たちのカウンセリングに向かうのだ。

初鍛刀の際、俺には異様なほどの資材と、最上級の準備がされた。
最高級のもてなしとともに、至高の手助け。

―――君の身を守るための刀剣を一振りでいいからよびだせ、
そんな表向きの奥。そんな口先の裏側で。

あわよくばどの刀剣よりも強く練度の高い、
至上最高の刀剣をよび出してはくれまいかと考えた、そんな政府の決定。

「なんていったっけ、審神者含め、政府の重鎮たちの間でも、
まことしやかにささやかれる最高の、・・付喪神の名前」
「・・三日月宗近です、主。
・・主、いい加減に覚えてください。
その質問、今ので五回目ですよ」

俺はどちらかといえばそれよりも、
俺に忠実でなくともいいから、俺に対して好意的でなくともいいから、
とにかく、俺の身を護ってくれるやつがいればいいと考えた。

―――だって、少しくらいあざとくないと、人間、生きていけないだろう？

あざとさが、浅ましさが、死にたくないという欲が、
俺を人を人間を人類を、"生"へとしがみつかせるのだから。

「あれ？そうだっけ？
俺、そんなにこの質問、してないかな」

結構繰り返し聞いているのだと思っていた、と言えば、

「・・今週で、五回目です、主」

眉間に僅かなしわをよせ、
俺の唯一の刀剣である江雪左文字はこたえた。

―――結果的に、俺はおれのもとにきた付喪神が、
この江雪左文字でよかったと思う。


――彼は友人に似ているし、
文句を言いながらも俺に助言をくれる。アドバイスもくれるし、
何かあれば呆れながらも手を貸してくれるし、

―――きっと、俺を守ることくらい、してくれるだろう。そう思いたい。

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