第九桂 ： 油断 ページ12
部屋からはどうやら中庭がよく見えた。
離れに近いこの場所で、俺達はこれから半年を過ごす。
――もちろん、それよりも早く撤退するかもしれないけれど。
「厄介事になる前に情報だけみつけて、
証拠になり得そうなものが手に入ったら早々に撤退しないとね」
「そうですね・・長居して、命の危機をまねくわけにもいきませんし、」
荷物を置く。
しかし広げることはしなかった。
―――いつここを出て行くかわからない。
修羅場や、危機が訪れた時、それを持ってそのまま逃げられるように。
そのためだけの措置である。
「必要な物はその都度出せばいい・・かな。
さて、それじゃまずはどこから調べて、『研修生よ、調べものか？』 ！」
背後から降ってきた声にはっと振り返る。
荷物を覗き込むように、こちらを見下ろす三日月。
袖で隠された口元は見えない。
扉からは離れていたはずなのに、
真後ろに立たれて声をかけられるまで気付かなかった。
――それは左文字も同じだった。
「はっはっは、俺に気付かなんだか。
近侍よ、警戒心が足りないのではないか？」
にこにこ、穏やかに、優美な笑顔をのせて、
三日月は何故か近侍である左文字にそう文句をつけた。
「・・驚いた。
太刀って、そんなに隠蔽力あったかな」
「・・おや、お主の近侍も太刀であろう？
・・そうか、索敵が足りなかったか」
いちいち、癪に障る言い方をする付喪神だと思った。
左文字にはない、しかしかといって、
今まで見てきたどの三日月宗近にもない、
奇妙な偉ぶりだった。
「・・何か、用事？」
苛立ちを抑えて三日月に問いかける。
思っていたほど、軽い声はでなかった。
「・・・、」
刹那、本当に一瞬だけ、三日月は、きょとん、とした。
しかしすぐに微笑みをたたえて、変わらぬ口調で口を開いた。
「・・審神者が、広間に来い、と。
女の足でここまで来るのは疲れるであろう？ だから、俺が来た」
俺はあ奴の近侍だからな、と、
わけのわからない言葉を付け足している。
「・・そう、わかった。ありがとう」
すっと立ち上がると、左文字に声をかける。
「行こう、左文字さん」
広間に向かい部屋を出る。
三日月に視線を投げることはしない。
「・・・・」
――――油断していたのかもしれない。
俺は三日月宗近を置いて、近侍さえ連れてしまい、
部屋に彼一人を残した。そのことが。
後に、俺の大嫌いな厄介事をまねくのだ。
「・・・お主は随分と荷物が少ないのう、研修生よ」
第十桂 ： 備前国本丸・所属刀剣→←第八桂 ： 奇妙奇怪・奇奇怪怪、本丸
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
