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【甘美な響きも優しくまろやか】
数十分後、彼女はどことなくツヤツヤとして疲れきった様子で机に突っ伏していた。敦は同情しつつも、その原因である自分を慰める。
「け、怪我治って良かったね」
「A、何度解体された」
『く、国木田さん……』
「Aちゃん、大丈夫かい?」
『はい……。その、七回です』
「「「あー……」」」
国木田や敦、太宰等の声が揃う。それは何とも辛かっただろう。精神的にも、肉体的にも。治療の御代である解体は与謝野の悪い癖だ。
『敦くんの莫迦……』
「ご、御免て……」
『御免で許されるなら、異能力者は要りません』
「うぅ……」
久し振りにこれだけ機嫌の悪い彼女に、敦はタジタジになりながら唸る。怪我をするのをカバー出来なかった自分が悔しい。
怖じけづいて、彼女に戦陣を切らせたのは敦だ。虎の治癒能力がある敦ならば、弾丸なんて効かないも同然だったというのに。
好きな女の子ぐらいは守れる力が欲しいと、拳を握り締める。まだ完璧に制御できない月下獣は、己が未熟である証とも云えよう。
「餡蜜でも食べに行こうか」
『え?』
「怪我させた挙げ句、与謝野さんに売ったお詫び。僕の奢りで餡蜜とか」
『え、悪いよ……。怪我したのは私の落ち度だもの。それに敦くん、鏡花ちゃんに』
「またお給料は稼げば良いし、大丈夫」
最近、鏡花に一階のうずまきでパフェを奢ったせいで財布は薄い。ここで彼女に奢ってしまえば、財布はすっからかんになるだろう。
それでもお給料分、働けば良い。何より、それでAが笑ってくれるならば安い支払いだと思えるのだ。これこそ平穏な倖せだろう。
『……んー、なら』
「うん」
『お言葉に甘えて』
「!」
次の瞬間。彼女が花開くような微笑みを浮かべた。思わず見とれてしまう。愛くるしい彼女の微笑みはまるで天使のように淡かった。
『……敦、くん?』
「え!?ななな、何でもないよ!!」
ただ君に晴れ。
(淡い片想いは)
(実るか実らないか)
(硝子の上の日常と共に)
(今日も虎は彼女の幸福を願う)
【秋海棠】片想い、恋の悩み
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年8月13日 14時