【秋海棠】*____中島敦 ページ3
【夢遊病のように甘い】
どうやら先の任務での疲れが膝にきたらしく、Aは崩れ落ちるようにして近くの建物に寄り掛かる。隣に居た敦は目を見開いた。
立て籠り犯の鎮圧を目的とした、警察と共同の緊急任務。それに抜擢されたのが、武装探偵社内の戦闘系異能力者である二人だったのだ。
「Aちゃん、大丈夫!?」
『うん、大丈_____。あ、痛ッ』
「っ、その怪我。深傷じゃないか……!!」
白煙の中、銃撃の嵐を突っ走っていた彼女は敵の弾を受けてしまったらしい。敦は顔を強ばらせて、洋服を捲った。途端、耳に僅かな衝撃。
Aが頬を桃色に染めて、嫌々と緩く抵抗したのだ。敦の耳に彼女の指先が当たった。確かに此処は横浜の歩道で、彼女は乙女だ。
けれども彼女の腹部の傷は鮮血で染まり、ドクドクと未だに傷口を開かせている。慌てて、Aを抱き上げると敦は風の如く走った。
『あ、敦くん!?』
「一寸黙ってて!!」
直ぐに探偵社に着く。国木田等の小言を受け流して、与謝野が居るであろう医務室の扉を勢いよく開けた。呆気に取られた顔の与謝野。
「おやまァ、敦じゃないかい」
「与謝野さん、Aちゃんが……」
『ひっ、ヤだヤだ……!!敦くん、止めて、下ろして!!解体されちゃう、嫌だぁぁ!!』
「なンだい、A。妾の治療が気に食わないッてのかい?悪い子だねェ……」
ニタリと笑った顔にAは目尻に涙を溜めて敦にしがみつく。懇願するような顔に敦の中の何かが切れそうになるが、そうじゃない。
今は彼女の治療が最優先だ。この愛くるしい顔を歪めてまで与謝野に差し出すのは罪悪感に誘われるが、致し方無い。敦は彼女を差し出す。
Aは与謝野に抱き抱えられ、手術室の方へと連れて行かれた。途中、裏切り者だとか、酷いとか聞こえて傷付いたが聞かなかった事に。
「お疲れ様、敦くん」
「有難う御座います、太宰さん」
「Aちゃん、引き離すのに苦労しなかったかい?彼女、余程恐がってたろう」
「はい、太宰さんの時もですか?」
「そうなのだよ!!まぁ、そこが可愛いけど」
太宰の言葉にやや苛つく。Aが無自覚なのは理解しているし、その飾らない魅力に惹かれた自分だ。だからこそ、嫉妬するというか。
彼女の甲高い悲鳴が轟き、御愁傷様と各々が溜め息をつく。敦は報告書を書きながら、治療が終わった彼女に何と云おうか考えるのだった。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年8月13日 14時