fire.15 ページ15
さっきと一転して重々しい空気が部屋に広がる。
先に口を開いたのは吉行だった。
「…わしが炎に飲まれちょった時、主の声だけが聞こえた。きっとあれは、刀であった時のわしなんじゃと思う。怒りやら、悲しみやらが炎になってわしを灰にしようとしてくるんじゃ。"龍馬を守れんかったお前が何をのうのうと生きている。お前は何一つ守れない。"ってなぁ…」
語尾が弱々しくなり、最後は掠れて聞き取れなかった。
思わず顔を上げると、目に涙を溜めて必死に流すまいと顔を顰める吉行がいた。
「わしは…わしは守れるんやろか…不安で不安で、いつ自分の炎が仲間を焼くか、主を、焼くか…怖くてしゃーないんじゃ…」
彼の"守る"という言葉にどれほどのものがのっているのか、実際に隊の命を背負った男士にしか分からない重責があるんだろう。
前の主を模し、いつでも前向きであろうとするのに、その奥には抑えきれぬほどの不安と恐怖があるに違いない。
私がいつ手入れや鍛刀を行った時に男士達を傷つけるか怯えていたように、吉行も気丈に振る舞いながら人知れず悩んでいたに違いない。
いつどんなときでも、自分は仲間の太陽であろうとしてくれていたんだ。
"情けなくてすまん"と頭を下げようとする吉行にそっと手を伸ばした。
私の力不足で手入れもままならない状態になってしまった傷を、一つ一つ包帯の上からそっと撫ぜる。
「謝るべきなのは、主である私だ。全ては私から始まったのだから。あの日私が君を顕現しなければこの傷も無かっただろう。…こんなに、悩ませることも無かった。」
「そがなことないぜよ…！わしは、主の元に顕現できて、心から嬉しい思うとるがよ…」
「私も同じだ。決して、後悔してる訳じゃない。何なら君じゃないと嫌だと駄々を捏ねていたかもな。なんせ私は無茶ばかり言うんだから。」
「ほんまじゃ…」
「この無茶に着いてこれるのは君しかいない。この本丸を作るには君と私でないといけなかったんだ。…改めて、私を主にしてくれてありがとう。そして、共にこの本丸を夜明けに導いてくれないか、陸奥守吉行よ。」
「言われんでも、そうするつもりじゃ！主にここまで言われて横に首を振るやつはおらんぜよ…改めて、世界を掴むぜよ！！主！！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：宵ノ月 | 作成日時：2023年9月28日 6時
