漆黒の禍狗はパパになったようです

誘拐　2 ページ14

Aside
「う…」

目が覚めると、暗い倉庫にいた。

手足はしっかりと拘束されており、動けない。

「…おや。随分と早いお目覚めだな。芥川A」

すぐそこから野太い男の声がした。

「ッ！治春ちゃんは！？お前たち…！」

床に転がされた儘、敵のリーダーであろう男を睨む。

「あぁ？ガキか？安心しな。無事だぜ、…今は、な。」

男が隣にいた部下に合図を送ると、治春ちゃんを抱いた男が現れた。

その途端、噴き出す様な怒りと嫌悪感が込み上げた。

「…汚い手で…治春に触るな…」

何とか拘束から逃れようとしたが、びくともしない。男は其を見て口元を歪め、

「おや、いいのか？お前らは人質だ。下手な動きをすれば、此の世からサヨナラだぜ？」

と、ナイフをちらつかせた。

「…それはそうと、お前、良い体だなぁ。ガキを生んだとは思えねえ」

男がニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ近づいてくる。周りの部下も、私の周りにじわじわと迫って来た。

「い、嫌ッ！」

「あ？人質の分際で生意気云ってんじゃねえ！」

ビリッ！

ブラウスの前を裂かれた。すぐ目の前に男の顔がある。嫌だ、恐い！

「へへ…それじゃーギャアッ！」

突然、男が胸から血を噴き出し、倒れた。

「…よくも…僕の、妻と子を…！万死に値する！死で償え！」

大好きな声に顔を上げると、今一番会いたかった人がいた。

「…龍！」

黒蜥蜴が奴等を殲滅している中、彼に叫ぶとだっと駆け寄り、抱き締められた。

「…済まぬ、守ってやれなかった…恐い思いをさせた…お前達を、失うかと思った。」

その腕は小刻みに震えていた。

「ううん。ありがとう、助けてくれて、守ってくれて。」

「嗚呼。」

「芥川先輩！治春ちゃんも無事です！」

樋口ちゃんが愛娘を抱き、駆け寄って来た。

「まーま！ぱーぱ！」

治春ちゃんは私達を見るなり、小さな手を伸ばして来た。特に怪我はなさそうだ。

「良かった…本当に良かった…」

治春ちゃんを腕に抱いた瞬間、安心感で堰が切った様に涙が溢れた。

パサリ

「龍？」

突然、黒外套を被せられた。

「…A、胸元が…」

顔を手で覆いそっぽを向く夫に云われると、ブラウスのボタンが外れ、前が見えそうになっていた。

「！…ありがと」

外套の前を寄せると、ふと、龍がニヤリと笑い、私の耳に口を寄せ、

「…A、今晩は覚悟しておけ。消毒してやる。」

其の言葉に一気に顔に熱が集まったのは云う迄も無い。

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