ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ8)

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僕のホームズことAが真実を明らかにする。言葉の1つ1つが斬新に染み渡るようだ。やはり僕が愛した探偵は世界一。うっとりして僕は体を傾ける。

『それに、亜浅Aさん？中学生探偵だかなんだか知らないけど、優秀で将来を期待されてる僕の名誉に傷つけてただで済むと思ってる？』

　だが、至福の時間は余計な男の声に邪魔された。ヘッドフォン越しに聞こえてきたそのセリフは、十分過ぎるほど頭に血を上らせる。

「こいつ消すか？」

Aに向かってなんて口を聞いているんだ。こんなやつがあの子の世界にいたら邪魔だ、Aが安心して過ごせる世界じゃないといけない。

　怒りと憎らしさが勢いよくブレンドされ、出来上がった苦い感情が全てを埋め尽くした。

　僕は直接の男を訪れた。習い事の帰りには1人でこの道を通る。意外と簡単に人間の行動は簡単に把握できる。

「いたいた、君が誠七郎？」

「……えーと、どこかでお会いしたことあったですか？」

　僕が片手を上げて挨拶すると、彼は人好きなしそうな笑顔で僕に応対した。僕は彼を知っていても、彼は僕を知らないはずだから当然そうなるか。

「君って恋人と別れるために名誉を傷つけて、他人に濡れ衣着せたんだって？」

　彼の顔色が真っ青になった。見開かれた目、恐怖に歪んだ口。もっと恐怖しろ。これは罰だ。

「君も青血さんみたいに顔から鼻血出して同じ間に合ってみようか〜。そういう皮肉、僕のホームズも好きだろうから」

　振り下ろした鉄パイプに赤い飛沫がついた。

　とまあ、このように裏で頑張ってみたのだが。「あいつ殴った、褒めて！」なんて言えないからAには褒めてもらえない。しかもAに友達が増えて、僕以外と話す時間が増えている。

　遺憾。マジで遺憾。僕頑張ったのに！？

「僕のAが取られていく……」

　意気消沈。

「いつ貴方のものになったのよ」

相変わらず手厳しいA、だがキッパリして言うところも魅力的ってところだ。ついこちらの頬も緩む。

　訝しげなAの声がスピーカーから聞こえる。

「ところで、誠七郎が転校を決めたらしいわ。青血さんから聞いたけれど」

「よかったね〜」

「……イタズラの域は超えてないでしょうね？」

　なんだ、僕がやったのはお見通しか。

　僕が「さあね」とはぐらかせば、無愛想に呆れたため息で返されるのだった。