ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ44)

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例のプール騒動があった翌朝、Aから僕に通話をかけてきた。五王君が彼女の席のそばにいるらしい。始業まで後5分。

「話しかけざるを得ない……」

「コイツ、Aに馴れ馴れしくしやがって！」

　だが、彼女と顔を合わせたクソナルシ野郎も様子が以前と違った。甘ったるい声から威勢が鳴りを潜めている。

「やぁ音楽探偵。ボクはっ……今ロスに襲われている！」

「あっそ……ロスってことは、まさか犯人に気がついているの？これから対処する予定だったんだけれど」

　Aの声にまさか、と僕は前屈みになって音を追う。五王マグナは語り出した。

「関係者の行動を洗った結果、甘花さんがプール裏に向かう目撃情報が出てね……事件処理ならボクが行ったよ。今朝のことだ」

　こいつ、謎を解いていやがる！しかも地道な正攻法で！ショックすぎて声に出ていたらしい、Aも「同感、嘘みたい」と囁いた。

「今朝、甘花さん本人に出頭を促しつつ話してみたんだ。でも、彼女から聞いたよ。キミはボクより先に謎を解いて甘花さんと話していたんだね」

　五王マグナいわく、甘花はAの説得に応じて心を入れ替え、自ら警察に話に行くとのことだ。彼女が所属する子役事務所とは、発表について相談している最中らしい。

「都合良すぎだろあの女っ！Aを突き落としておいて！」

僕が思い切り机を殴ると、「うるさい」と宥められる。

「……まあ生きてるし。錯乱していたものとして大目に見るわ」

「ねぇ、あんまり優しすぎると流石に心配——」

　しぃっ、と諌める声。どうやら五王と話しているらしい。2人の話は作業チャイムのギリギリまで続いた。

　キィ、と椅子を引くノイズとチャイムの音。ようやく席につけたAは、小声で言った。

「『音楽探偵の亜浅Aを正統なライバルとして認める！』だって」

それを聞いた途端、粘着質な嫉妬の炎がめらめらと噴き上がった。手が震えるほどの怒り。

「ふざけんな五王マグナァ……僕同等に地道な捜査ができて、僕より推理力がある好青年とかマジ？」

「あら、ワトソンには五王君にはできないハッキング技術があるし、彼と私じゃスキルも被ってる。私に必要なのは貴方でしょ？」

　彼女はもう忘れたの、と僕に念を押す。

「……ん、僕しか助手にしないんだったよね」

そう答えれば、Aは満足げに息を吐くのだった。僕の嫉妬もみるみるうちにしぼみ、彼女と話す幸福感が次第に全て忘れさせてくれた。