Case5-8 ページ42
暗い空と反射しながらプールの水が黒く揺れる。
「それで、いくらで黙っていてくれるんです?」
「は?」
つい素っ頓狂な声をあげてしまった。この子役は何を言っているんだ?彼女は頭を抱えてうずくまる。
「ゴシップを掴んだら"ゆする"に決まってる、そうやって周りの子役はみんな落ちぶれていった、次は、私!いやだヤダヤダ折角ここまで頑張ったのに!みんなの前で暴かないってことは、私をゆするつもりなんだぁ!」
「ちょっと、大丈夫なの——なっ!?」
絶叫した彼女は、1歩近づいた私にプールのウキを投げつけた。咄嗟に両腕で防御する。手当たり次第に投げられた浮き輪やネットが、頭の横を通り過ぎ、時折体にぶつかった。
「ちょっと、やめ、落ち着いて」
——バンッ!
一際大きな衝撃。ビート板が脳を揺らした。視界が揺らぐ。体が大きく傾いて、私の体は冷たい水の中だった。
大量の気泡が視界を埋め尽くす。上も下もわからなくなるほどに。バタつかせた足が、不自然に動きを遮られた。先程投げつけられたネットが足に絡まっている!
必死に酸素をかき集めようとするが、浮上できない。プールサイドが遠ざかっていく。
……死ぬのか?
そう思った時、誰かが私の手を掴んだ。
体全体が重くなって、水中から引っぱりあげられる感覚がある。ざぱり、プールサイドに手足をついてようやく私は息をした。
「はぁっ!げほ、げほっ……」
呼吸を爆発させる私の背を、私を引き上げた何者かがさすっている。何とか肺に酸素を取り入れながら、私は必死にその人物を見ようとした。私の背中をさする手の持ち主を。少し落ち着いてきた思考で私が思い至った瞬間、2つのことが起こった。
その人物は私の目を覆った。そして、私を抱きしめたのだ。片方の手が目を隠し、もう片方の手が背中に回されている構図だ。
「見ちゃだめ」
聞き覚えのある声。間違いない、いつもヘッドフォン越しに聴いている私の助手の声だ。
ここにいるのはワトソンだ。
酸欠で混乱していた脳がようやく正常に思考を回し始める。水を飲み込み何度も咳をしたせいで、ビリビリ喉が痛んだ。
「甘花雛は?」
「僕が到着した時には人影ゼロ」
「……そう」
私はしばらく彼の腕の中で目を閉じていた。ちょっと疲れて、休みたくなって。体重を半分預けた。
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作者名:バニー芳一 | 作成日時:2023年8月28日 13時