ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ39)

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Case5-5 ページ39

「いやぁ、ボクの一家の輝かしい歴史はね……」

　結局、教室に戻る際に五王君はついて来てしまった。隣のクラスらしい。こんなうるさい奴が隣部屋にいるなんて知らなかったし知りたくなかったけれど。

　教室に戻ると、私の席の前で笠井さんと甘花さんが待っていた。笠井さんは私に気がついて手を振る。

「Aちゃん、甘花さんが用事だって！」

彼女は何やら紙の束を持っている。

「これ、例の盗撮写真です。回収してきました……恥ずかしいですけど女の子同士ですし」

　甘花さんはそれを手渡すと、恥ずかしそうに腕を体の後ろに組んだ。確認しておきたい、けどまだ私について来ている邪魔な奴がいる。

「五王君。お前、盗撮写真を見るつもり？」

「えっ」

流石に男の前で着替えの盗撮を見るなんて、デリカシーがないことはしたくない。私が目をカッと見開くと、ナルシストから余裕が消えた。声を上擦らせて数歩後ずさる。

「ぼ、ボクはここで退散するよ。他にも捜査すべきところはあるからねっ。か、甘花さん！事件は必ず解決するから安心して！」

去り際にこちらを指差し「事件を解決するのはボクさ！」と叫んで逃げて行った。当の甘花さん本人は驚いて、口元を両手で押さえるばかりだが。

　さて、写真は確かに甘花さんを写したものが多い。50枚近くがそうだ。また泣き出しそうな彼女の肩に、笠井さんが手を置いて慰めている。

「ワトソン。この写真どうにか預かってみる。さっき言っていた3D模型の更衣室と比較したら、どこに盗撮用カメラを置いたのかわかるんじゃない？そこからまた手がかりになるかも」

「名案！……って五王には見せないのに僕には見せていいの、その写真」

「捜査には必要だし、貴方は浮気しないんでしょ？」

　ワトソンは「ああ」と言って前に彼自身が言ったことを回想しているようだ。

　数ヶ月前の話なのに懐かしく感じる。彼がバレー部の部室カメラをハッキングした時、『エル以外に浮気しないからっ！』と言ったことを思い出し、私は目を細めて笑った。

「それはそうだけど……Aに信用されていると思うと少し照れるね」

はにかんで笑う吐息がノイズとして耳に届く。

　私達が話している間、笠井さん達は別の話題で盛り上がっているようだった。スマホを覗き込んで(こういう時、携帯電話持ち込み可能な学校のありがたみを感じる)キャッキャと晴れやかな笑い声をあげている。