ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ38)

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Case5-4 ページ38

「……とりあえず、ワトソン。歩きながら話すわ」

　見るべきところは見た。私はさっさと迷探偵に背を向け、傾いたヘッドフォンを抑えて直す。

「この足跡は偽物ね(だね)」

ワトソンに報告する声と五王君の声が重なった。驚いて振り向くと、泥の前にしゃがんだ彼もこちらを見ていた。

「キミも気がついたかい？足跡には靴裏の校章マークが付くはず。でも全部ペッタペタ！」

「足のサイズもバラバラだから不自然極まりないわね」

　彼は立ち上がって靴についた泥を落とす。

「そうなると、気になるのは足跡を偽造した隆……どこにこの足跡は続いているのか、だ」

「あっちの方じゃないかしら？」

「ボクが先に調べるっ！」

　五王君は私が指差した方に全速力で走り去った。フリスビードッグより単純だ。

　彼がいなくなったところで、私はスマホを取り出し更衣室に入った。横に構えた状態で、カメラ機能の赤いボタンを押す。ワトソンが焦った声を出した。

「ちょっとA、今録画の音がしたけど！？まさか五王とかいう木偶の坊を撮ってる！？」

「そんなわけないでしょ。盗撮できそうな場所はないか、貴方が探せるように記録してるのよ」

棚の配置、換気扇の高さ、プールとの位置関係。全て映るように、ゆっくりカメラを動かしていく。そして錆びた鍵を揺らし、窓が開かないことも記録した。これで盗撮は外からではなく、内側から行われたと明確にわかる。

「これである程度捜査は進むかしら？」

助手はエンジンをふかすバイクのように、エネルギッシュな声で返事した。

「まっかせて。部屋の3D模型とか作っておくから」

「最高」

そう言って更衣室の戸を閉めると、はるか向こうのほうからさっき聞いた大きな声が近づいてきた。

　また五王君だ。すごい笑顔で走ってくる。浮力を発見したアルキメデスか、あるいはフリスビーを咥えた犬だ。

「聞いて驚くなよ、音楽探偵。あの足跡、武道場まで続いてたぞっ！」

……そこまで走ったのか。肩を揺らして息をする彼は、五王君なりに全力をかけて捜査しているらしい。

　息を切らせる男を前に、私の助手は淡々と「情報は貰ったからさっさと離れよ？」と言ってのけるのだった。私もそれに賛成だけれど。