ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ36)

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Case5-2 ページ36

翌日。学校で会った甘花さんは、可憐な女優らしからぬくまを目の下に青く作っていた。この事件の影響か、眠れぬ夜を過ごしているようだ。

「私、端役ですけどドラマにも出ますし、美少女コンテストも控えてて……困るんです。私の写真が半分を占めていて、きっと私が狙われているんです」

彼女は目元を潤ませてため息をつく。彼女には控えているイベントがたくさんあるらしい。何か関連性があるかもしれない。

「この子そんなに可愛い？」

「ワトソン」

ヘッドフォン越しで相手に聞こえていないからいいものの、子役に言う言葉じゃない。

つい人前で助手を叱責してしまったが、甘花さんは気が付かなかったらしい。涙の琴線がぷつりと切れたらしく、両手で顔を覆った。

「もう学校の監視カメラですら怖くって……お願いします、助けてください！」

「その監視カメラは一番可能性としてあり得ないって、そこの素人に教えといてくれるー？」

相手に聞こえていないからいいものの！甘花さんが泣いてこちらを見ていないので、こっそりヘッドフォンを押さえる。

「ずいぶん被害者に冷たくするじゃない、ワトソン」

膨れて喋っているのか、くちびるをすぼめたみたいな変な声で返事される。

「別にー。Aが笠井さんやジョー君のためにどこぞの子役に親身なのが面白くないとかじゃないですし？」

そのことか。ずいぶん子供っぽい嫉妬で、やれやれと苦く笑ってしまった。

「私と被害者の関係は、私達の関係には関わらないでしょ」

「えっと、つまりどういうこと？」

「その程度のことでいちいち嫉妬しなくても貴方しか助手にしないし、この関係を解消するつもりは今のところ無いから」

彼は何度か私の言葉を繰り返し、反芻するようにそれを噛み締めていた。しばらくの沈黙の後、早口にボソッと呟く。

「……熱烈なプロポーズありがとう」

「ち、が、う」

　たしかに今の私の言葉だと、ちょっとプロポーズみたいだったかもしれない。でもそんなつもりはなかった！

　私達が言い合いしている間に、甘花さんの涙も収まったらしい。こちらを見て不思議そうに首を傾げていたため、私は1つ咳払いした。

「何か心当たりはあるかしら？人でも出来事でも」

「プールの裏に足跡がたくさんあったんです！そこから誰か侵入したのかもしれません」

泥の足跡なんて消えてしまう。すぐに向かわないと！