ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ33)

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助手目線のひいきを無しにしても、Aは優しい。

　というのも、お茶会の後片付けを自ら名乗り出たのだ。調理実習の後みたいに、カップを洗う流水の音が聞こえる。

　周りの子達があまりにも悲惨な表情をしていたため、可哀想に思ったから引き受けたようだ。

「ワトソン。梔子さんの気持ち、わかった？」

　かちゃり、カップを置く音と共にAが言う。どうしてそんなことを聞くんだろう。別に嫌なわけじゃないけど、純粋に疑問だ。

「貴方が言いそうなことだったじゃない」

　梔子さんの絶叫を思い出す。

『わけのわからん御曹司の野郎が、奪って邪魔しよって。そんなんしょーもない、おもんないっ！今度こそウチだけのものにしようと！』

　普段のAなら真相がわかった後「わかりやすくて助かるわ」くらい言うのに、今日は何も言わなかった理由がわかった。僕と彼女を重ねていたのだ。

　僕はちょっと動揺していたけれど、でも素直に言った。

「わかるよ」

　手のひらが汗ばむ。マウスに被せた右手が少し力んでいた。Aは何も言わないし、完全に動きを止めている。何も聞こえない。

「わかる、けど。今日の転末を見たら少し気が引けた……かな。未来の自分がアレと考えたら、うん」

　声は掠れたし、最後の方は情けなくぼやけた声になってしまったけど。それでもこれが本心だ。梔子さんの絶叫を聞いたら、少し怖くなった。

　何もかもが終わりになって、2度と助手と探偵の関係に戻れない未来を想像したら、震えが止まらない。

　Aは「そう」とそっけなく返事した。でも、そういう時はむしろ僕を許してくれている時の言い方だ。彼女はダメなことはちゃんと咎めてくれるから。

「僕は末長くAの味方でいたい。だから、ずっと僕をワトソンでいさせてね」

　遠回しの浮気しないでと言う要請。

「善処するわ」

　そう返した彼女に、つい頬が緩んだ。

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次話更新は少し後になるから待っててね