Case4-9 ページ32
私は武道場と校舎裏にしか行っていないから、梔子さんの机なんて見ていない。本当ならかなりわかりやすい嘘だ。
それでも気付かず、彼女は自白同等の発言をしてくれた。あらかじめ追い詰めておけば、大抵こういうミスをしてくれる。
「『好き、愛してる、君は光』……これ、なんですかぁ?」
山吹さんが目を細める。まずい、バレた。
実はこれ、ワトソンが私に言ってきた愛の言葉が被った時に、煽るために用意していた記録だったのだが。咄嗟に使えるものがこれしかなかったからつい出してしまった。
「えっと……私は音楽探偵だから、この前聞いた歌詞の韻を書き出していたの」
「へぇ〜音楽探偵っておもしろぉい!かっこいいですねぇっ」
これ以上自分を音楽探偵にしても、自身を追い詰めているだけな気がする……ヒットソング、勉強しておくか。
私と山吹さんが話していると、小さな笑い声が上がった。逃げ場をなくした梔子さんだった。
「そうや。ウチが花葉を隠した」
彼女はどうして、と呟いた鶸さんを睨む。強く床を殴る音に、誰もが身をすくませる。
「鶸にも部長にも山吹ちゃんにも、探偵にも誠四郎にもわかるはずない。だってウチ、ずっと好きやったから!」
彼女は思いの丈を語りだした。
小さい頃に関西から引っ越した梔子さん。幼稚園の年長から編入して、友達の作り方もわからず、ずっと1人だった。そんな彼女に手を差し伸べてくれたのが万さんだったようだ。
女子同士なんて関係ない。1番最初に好きやったのはウチだ、と。しかし、その恋路は阻まれたわけだ。
「わけのわからん御曹司の野郎が、奪って邪魔しよって。そんなんしょーもない、おもんないっ!今度こそウチだけのものにしようと!」
でも、終わりだ。彼女の目論見は全部おしまい。呆けたように天井を見つめる彼女は、部長の手で職員室へ連れて行かれた。抵抗の様子はないため、私は座ったままそれを見送る。
「私達、また友達に戻れるでしょうか」
俯く鶸さんは目を潤ませている。「貴方達次第ね」と返事して、カップを口元に近づけた。
勿論彼女達が絆を取り戻せればこの上なく嬉しいが、友人関係は私も得意分野ではない。推理披露に使った脳の疲労は、紅茶の香りが補完してくれた。
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作者名:バニー芳一 | 作成日時:2023年8月28日 13時