ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ28)

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Case4-5 ページ28

梔子さんがパンと手を叩く。

「部長、流石にそろそろ顧問が来ちゃいます」

「……そうね。悪いけれどそろそろ、探偵さん」

「ええ、十分よ。ありがとう」

　私が1つ会釈して武道場を後にする。ワトソンに話しかけようと口を開きかけたところで、後ろから例の甘ったるい声に呼び止められた。

「山吹はあざと系ですけどぉ、周りに気遣えるタイプなんですよぉ〜」

　山吹さんが耳を指差すジェスチャーをしたので、ヘッドファンを外して首にかける。彼女は私の耳元に両手を添えた。

「だから、見てましたぁ！花っち……花葉さんは帰らずに校舎裏の方に行きましたよ。理由までは知りません」

　3歩離れてからにっこり笑った少女の笑顔は、確かに誰にでも愛される花のようだった。恐ろしい、しかし今のところ1番有力なヒントだ。

　武道場からの道中、ワトソンに山吹さんの証言を伝えた。

「トロフィー窃盗騒動のとき、貴方はこの学校の地図を見たでしょう？校舎裏に何かあったかしら」

「この地図、本校舎しか描いてないんだ。でも何もなかったはず」

　であれば、校舎裏にあるモノより、校舎裏に来るヒトが目的だった可能性が高い。花葉さんは何者かに呼び出されて校舎裏に行き、被害に遭ったのだろう。

　校舎裏は整備が行き届いていないのか、背の高い草が足を撫でてくる。うっとおしくて足を1振りすると、キラリと光るものを見つけた。

　手袋をして拾い上げれば、銀のかけらが光った。何やら模様があるだけで文字の情報はない。

「アクセサリーが割れたにしては、大きいわね」

　裏返してぎょっとする。血がついていた。血痕と模様をそれぞれ写真に撮り、ワトソンに送信する。彼が興奮して「これ！」と叫んだ。立ち上がるようなノイズが聞こえる。

「これビンゴだよA、今送るから見て！」

　スマホがヴヴッと短く鳴く。送られてきたのは、誠四郎とチャットしていたスクリーンショットだった。

『W:僕は探偵助手です。行方不明の万花葉さんを捜索しています。このチャットにはイニシャルしか出ないので安心してください』

『S:信用していいのか？』

『W:しなければ彼女を見つけることはできません。何か変わったことは？』

『S:彼女に貰った杖が盗まれている。花葉の行方不明と関連があるかはわからないが』

　そして送られてきた写真には、銀の装飾がついた杖が写っていた。