Case 4 「マドンナは行方不明」 ページ24
「そういえばAちゃん、
「それ本当？」
私は無意識に苦い顔をしていたらしく、目の前にいた青血さんがとたんに申し訳なさそうに眉を八の字にした。
転保先生は保健体育の先生で、陸上部の顧問をやっている。最近は顧問がいなくなったバレー部の責任者も兼任しており、激務に悩まされている人だ。
頑張る人は嫌いじゃないのだが、彼は私のヘッドフォンを注意してくるから苦手だ。
校則上、スマホは許されていてもそれに繋ぐアクセサリはかなりグレーゾーン。他の先生は何も言わないのにこの馬鹿真面目さんだけは廊下で見かけると軽く叱られる。
ワトソンがちょっと心配そうな声色でささやいた。
「呼び出されるのは珍しいね……あの教師！一体僕のAに何言おうってんだ！」
「貴方のじゃないわよ。指摘されたくないから、少しの間通話は切るわね……ありがとう青血さん」
「お安い御用よ、気をつけてね」
スマホ画面の受話器を置く赤いマークをタップして、私は教員室のある階へ階段を降りて行った。
「転保先生はいらっしゃいますか」
「おう」
3回ノックしたとき、その返事をしたのは確かに彼の声だった。
でも、明らかに元気がない。調子の悪いオットセイが静かにオウとでも鳴いたようで、人間らしい覇気がまるでない。
不思議に思いながら扉を開けると、岩のようなしかめっ面で彼は手招きしてきた。椅子を指さしたので、遠慮なく座らせてもらう。ところが、何も切り出してこない。仕方なく私は息を吐いた。
「ご用件は？」
「あー……それなんだがな。
私が首を振ると、彼は苦い顔をしながら言った。
「昨日から行方不明になっているんだ」
転保先生はデスクからバインダーに挟まった紙を取り出す。
────
3年 不登校者リスト
・一菖蒲 ニノマエアヤメ
・東堂緑 トウドウミドリ
・百狛瑠璃 モモコマルリ
・仙扇緋色 センセンヒイロ
・万花葉 ヨロズハナバ
────
「ニノマエ……1、トウドウのトウが10？ ひゃく、せん、万さんはそのまま」
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作者名：バニー芳一 | 作成日時：2023年8月28日 13時
