ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ3)

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Case1-2 ページ3

「笠井さんの言ってることホントだよ」

「詳しく」

　私が前のめりに聞き返すと、そうこなくちゃと笑う声が聞こえた。どうやらワトソンは私が探偵として推理している姿が好きらしく、時々興味を惹くような物言いで私を謎に誘うことがある。

「学校にいるAの姿が全然見られないから、監視カメラをハッキングしたんだ。結果、部分的に覗けた」

　……私のためにそこまでやるのか、この男は。犯罪者だぞ。私が呆れて言葉も出ずにいると、焦ったように付け加えられる。

「勿論更衣室にはカメラなんてないから、着替えは見てないよ。A以外に浮気しないからっ！」

　そこじゃない。呆れ返って遠くを見つめてしまう。

「それで、笠井さんはバレー部の部室で部活の記録を書いていたよ。遅くまでやっていたからポスターを貼る暇はなかったはず」

　なるほど。その言葉を信じるなら、彼女には確固たるアリバイがありそうだ。

「お手柄ね、ワトソン」

　通話越しに悶えるような声が聞こえる。缶が転がる音が聞こえた……机の上に放置したエナジードリンクの空き缶を落とした、ってところか。

　しばらく喜びを全身で感じていただろう男は、声色に弾けるような喜びを携えていた。

「念のために録画しておいてよかった〜！ Aが見られないカメラなんでどうでもよかったけど役に立った〜！」

「……捕まるから消しなさい」

　そう言い放つと、「はいはい」と空返事にも近い応答。
いつか会ったらもうちょっと本気で叱ろう。

　それはさておき、私は顎に手を当てて真剣に考える。

「問題は、この証拠が共有できるのが私達の間だけってことね」

　そう、ハッキングなんて方法で手に入れた証拠を提出すれば私の立場が危うくなる。それに私とワトソンの関係は世間に受け入れられるものではない。

　正直かなり気持ち悪いことをしてくる彼だが、通話しながら過ごす日々に慣れてきたのも事実だ。推理にも役立ってくれる彼を、今手放すのは惜しい。

　つまり、ハッキング映像以外の根拠で笠井さんの無罪を証明しなくてはならないのだ。

「どうするつもり？」

「決まってるわよ」

　顔にかかる髪をはらいのける。考えるうちに血が騒ぎ出し、脳がカァッとあつくなっていった。

「真犯人を暴く。それで笠井さんの無実を証明するわ」