ヘッドフォン越しのワトソン【ヤンデレ×推理小説】 (ページ13)

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Case2-5 ページ13

ヘッドフォン越しに、ワトソンが座り方を変えたらしいノイズ。

「そうか、用務員は部屋の内側から鍵をかけるもんね。だから渡された鍵が別の部屋のものなんて、思いもしないわけだ」

　彼に「そうよ」と小さく囁く。

「私達が部屋を勘違いしていただけで、そもそも密室じゃなかったってこと？」

　笠井さん、御明瞭だ。閉鎖された空き教室に談話室の鍵があっても、本物の空き教室の鍵を使えばいいから密室にはならない。

　犯人はあらかじめ部屋の表札をすり変え、談話室と見せかけた空き教室にトロフィーを置いた。

　副部はトロフィーを置いた部屋の鍵と思いながら、実際は隣の部屋の鍵を用務員に渡す。用務員は中から鍵をかけるため、その鍵が別の部屋のものと気が付かない。

　ここまで3人に説明し直すと、彼らは納得したように頷いた。

「つまり、空き教室の鍵を持っている人が犯人ってことか？」

「城くんにしては御明瞭ね」

　片方の口角をあげると彼は「にしてはってなんだよ」とポケットに手を突っ込んでそっぽを向く。

「副部長は談話室の鍵しか受け取っていない。なら、残る容疑者は？」

　その場にいた生徒、そしてワトソンも含め全員が先生と声に出した。

「オレ、他の先生達に話してくる！」

「私もっ！」

　笠井さんと城くんが廊下を全速力で駆ける。私と副部は遠い目でそれを眺めるのだった。

「……ちょっとA、僕という耳元の助手を忘れて男といすぎじゃない！？Aー！？」

「ワトソン諦めて、依頼だから」

　3日後。バレー部の顧問は変わり、トロフィーは本当の談話室に置かれた。動機などは警察が取り調べで聞き出すだろう。

　本当に密室は嫌いだ。多くの場合、密室なんてただの勘違い。つまり人の心から事件を読み解く私の天敵だ。でもうまく解けてよかった。

　しかし、1つ面倒ごとも残った。

「亜浅Aーっ！お前良い奴だなぁ！」

「城くん、それ聞くの7回目よ」

　このガキ大将に気に入られてしまった。偶然今はワトソンと通話していないからいいものの……。

「この前の礼と言っちゃあなんだけどよ、バレー部でバーベキューやるから来いよ！」

「はぁ！？」

「私もそのバーベキューには参加するよ。もしかしてAさんも来てくれるの？」

　知らないうちに笠井さんも近づいてきていて、期待に溢れた顔でニコニコと笑っていた。