佰伍拾捌 ページ17
伏黒side
「…ほら、いい加減 部屋戻るぞ。」
少し顔色が悪くなってきたAを見て
ソファから立ち上がり、手を差し出す。
以前のように動けるようになるには
まだまだ時間がかかるだろう。
一カ月も眠り続けていたんだ。
それは仕方がない。
だが、Aは俯いたまま
手を取ることも
立ち上がることもしない。
かがんで目線を合わせると
一カ月前、姿を消す直前に見せたのと
同じ表情をしていた。
何かを、一人で抱え込んでいるような
見ているこっちが辛くなるような…
そんな顔。
「A………?」
思いつめた表情を
少しでも和らげてやりたい。
その一心で
依然として青白い頬に手を添える。
温度が伝わるように
そっと撫でながら。
ゆっくりと、Aの顔が上がって
互いの視線が、一直線上で交わる。
形のいい、柔らかそうな唇を
少しだけ開いて
Aが何かを言おうとした時だった。
五条「A。」
いつもタイミング悪く現れるその人が
今回も例外なく
共有スペースの入り口に立っていた。
笑っている口元と
優しい声色とは対照的に
獲物を横取りされた
肉食獣のように鋭い瞳が
真っ直ぐに、俺に向けられている。
声に反応して
先生の方を向いたAの頬から
自然に手が離れる。
A「………悟…。」
………悟…?
Aが呟いたその言葉に
思わず驚く。
五条さん、から突然
何倍も親しげになった、その呼び名。
違和感に戸惑う俺とは違って
Aはそれを言い慣れているようで
先生はそれを聞き慣れているようだった。
……そうか。
Aが思い出した記憶ってのは
恐らく、先生に関するものなんだ。
謎に包まれていた二人の関係性に
近づいたと同時に
俺との間にある
越えられない時間の壁を
突き付けられたようだった。
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作者名:るびー | 作成日時:2024年2月15日 9時