mission 42 ページ42
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青いベンチに横になり、眩しい空を見上げる。
携帯の画面が10時を指している。
二時間目を告げるチャイムが漸く鳴り終わった。
結局、俺なしで授業が終わっても誰も心配などしない。
所詮いらない奴なんだ、俺なんか。
「母さんも、そう思ってたのかな」
生きているかも分からない親に、何度もそう尋ねてきた。
「そうならそうと、産まなきゃ良かったのに」
俺がここにいても、気づかないなら。
「ここにいることくらい、許してくれたっていいじゃんか」
譫言のように吐き出す。
誰も拾ってくれないそれは、誰にも聞こえず忘れ去られる。
「……ここ、立ち入り禁止なんだけど?」
気配を感じさせず現れたのは、他でもないあいつだった。
「いつからいたんだよ」
「八乙女が独り言呟いてるところから」
えっ、とマヌケな声が出た。
……まさか、聞かれてた?
「少なくとも、伊野尾は八乙女がいて幸せなんじゃねぇの」
あと有岡もな。
俺を見下ろす眼は、優しかったと思う。
向けられるのは、いつもそんな顔だった。
「伊野ちゃんが?」
「八乙女のこと、幸せにできてるかどうか不安なんだってさ」
ちゃんと気持ち伝えてやれよ。
愛され方を知らなかった当時の俺。
頭を撫でられたあの感触を、忘れたことはない。
“嬉しい”と思ったあの日を、忘れたことはない。
それを思い出させてくれた薮は、じゃあ、どうして。
「……なんで、さっき、笑ったの」
薮に聞きたかったのは、こんなことじゃなかった。
本当はそうじゃなくて。違くて。
「なんで、俺には笑ってくれなかったの」
あの顔は皆に向けられたものに過ぎないんだ。
俺が最初に笑ってほしいと頼んだのに、相手にもしなかったじゃん。
そう文句を口にすると、ヤツは声を上げて笑いやがった。
「可笑しいかよ!」
組んでいる腕で顔はよく見えない。
それでも分かる。
……こいつは俺を馬鹿にしてる!
「あのな、お前自分で気づいてないんだろ」
「……なにに?」
「八乙女光は嫉妬をしているわけだ。それも有岡やクラスメイトに」
「はあ!?」
んな、あるわけねぇだろ!
薮なんかのことで嫉妬するかよ、下らない。←
「じゃあなんで文句があんだよ。ちゃんとお前の目を見てただろ?」
「だっ、……だってそれはっ」
「そんなに俺に見てほしいのか?」
「ちげぇし!」
言っても無駄だと分かってた。
でも、納得なんてできない。
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作者名:柊 | 作成日時:2018年10月12日 19時