mission 39 ページ39
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「少なくとも、期待してくれればできる可能性もあったかもしれない。されたことがないから分からないだけで」
全部“分からない”で解決できるのは小学生までなんだと、つい最近知った。
高校生は「もう大人だろ」と言われ、中学生でも「もう中学生なんだから」なんて。
何度も何度も繰り返されたその言葉を、一体どうやって納得すればいい？
全員が全員、同じタイミングで成長できるはずがない。
それくらい嫌でも理解できるのに。
「なら、やってみるか」
「は？」
「俺が八乙女に期待すればいいんだろ？ついでに伊野尾も」
「ついでに言うな。ついでに、って」
「はいはい」
なにをやっても中途半端で、なにをやっても見てはもらえなかった。
期待はプレッシャーになりがちだけれど、俺はそんなことすら身に覚えがない。
プレッシャーすら、人に与えられたことがない。
「次のテストも期待してる」
聞き慣れない言葉に、危うく声が洩れ出そうになった。
薮に褒められてみたい、って。
そんなことが、頭を過った。
「なんだかんだでボロクソに言われてたねぇ。嫌なせんせ」
「……うん」
「ばーか。どんな面下げてんだよ」
少しだけ高い声で笑った後、少しだけ高い所から頭を撫でられた。
いい気はしない。……でも、悪い気もしない。
「俺のこと、どう思った？」
「もーちょっと真面目にならなきゃだね」
俺の欲しい言葉を知っているくせに、伊野ちゃんはいつも避けて通る。
それが俺の人生にどう影響しているかは謎だ。
「……て、え。それだけ！？」
「うん。別にやりたい事をやってればいいんじゃない？」
伊野ちゃんってテキトーなんだか頭が良いんだか分からない。
でも保護者としては、これ以上ないくらい素晴らしい人だ。
「まぁとにかく！これからはビシ！バシ！いこうかな？」
「え、やだよ」
伊野ちゃんにかけてほしい言葉はいっぱいあって。
伊野ちゃんに知ってほしいことも沢山あって。
でも最近、薮に話したいことも増えてしまった。
「……光」
ん？と少し先を行く俺を、我が子を宥めるような目で見つめる伊野ちゃん。
その目にどれだけ愛されていたか、俺はまだこの時、なにも知らなかったのだと思う。
「一つだけ、思ったことはある」
「なに？」
「光は、薮のこと大っ嫌いなんだって」
コロコロと笑う伊野ちゃんの真意に、微塵も気づいていなかったんだ。
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作者名：柊 | 作成日時：2018年10月12日 19時
