mission 40 ページ40
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面談の時にはまだ薄っすらと残っていた首元の傷。
あれはいつの間にか消えてしまっていた。
５月に入って２周目の今日、窓は全開で涼しい風が吹き抜ける。
配られたプリントが捲れ上がり音を立てた。
未だにクラスでは笑っているのを見たことがない薮だけれど、長袖シャツの袖を肘あたりまで巻き上げて黒板に向かう姿は女子生徒の癒しとなっているらしい。
現に一番前の真ん中の席、つまりお見合い席の女子なんて、薮が俺らに向き直った瞬間に口元を手で押さえる癖がついてしまっている。
ニヤニヤを隠す為だけの癖だ。
「なーんで笑わねぇんだよ、あいつ……」
優越感というか、ある意味あいつの弱みというか。
このクラスで唯一俺だけが、薮の素顔を知っていることが嬉しかった。
純粋に、嬉しかった。
「それに、さっきからなにしてんだ。大ちゃん」
ぼそっと呟くと、前の男子がクスッと笑った。
あれに気づいてたか。
……いや、あれにはみんな気づいていた。
ただ見て見ぬフリをしているだけだ。
あれは流石にな……、と横目で見ると、まだ大きな画用紙を手に俺に口パクで伝えようとしている。
なんだかは知らない。
てかあの画用紙どこから持ってきたんだあいつ。
「なに、大ちゃん」
小声と口パクで伝えると、薮がまた黒板を向いた瞬間に大ちゃんが俺の席まで走ってきた。
皆、我慢強いな。
俺は笑いを堪えられなくて２、３回は吹いた。
「これ、やってみる気ない？」
「……なに。これ、」
「こっちからも回してよ」
じゃね、なんて割と大きめの声で戻っていくから、薮にまんまと捕まった。
渡された紙の束を見ると、そこには……
「“薮ちゃんを笑わせよう大会”？」
なんだこれ。
こっちからも回してってことは、両方向から早く回したいってこと？
てかなんで今。
「とりあえず、これ回して」
半ば前の男子に押し付けるようにして手渡した。
やがて授業の終わりの方になると、早くも会議がそこら中で始まっていて。
「なぁ、俺の話聞いてるか？」
見つかった頃には皆でハッとした顔つき。
全く授業を聞いていなかった上に、あの紙を見られそうになった。
そのまた上に、皆で話し込んでいたから、どこから聞かれていたか分からないという謎の不安が襲いかかった。
「……」
え、いや誰もなにも言わねぇのかよ！
俺が心の中で文句を言った瞬間、薮の目が俺を映した。
……いやいやいや、嘘だろ！？
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作者名：柊 | 作成日時：2018年10月12日 19時
