103.食堂 ページ5
「ああそうだ、昨日のはβ国の刺客だったそうだ」
二時間程度の仮眠をとって、朝食をとりに食堂へ。任務が入っているゾムさんを覗いた幹部が各々好きに食事をしているところに、唐突にグルッペンさんが告げた。
「なんや、早いこと吐いたな」
「俺らの出る幕も無かったかあ」
何故か残念そうに言うのはコネシマさんとシャオロンさんで、私はそれを聞きながらぼんやりと考える。β国からも何度も依頼を受けたことはあるし、もう既にグルッペンさんたちに渡したものの、重要機密もいくつかは知っていた。恐らくはそのせいだろう。
「ていうかA、殺さんかったんやな」
「……スパルタクス様にも言われました」
「ああいうのは無理して捕らえんと殺してええよ、大体大した情報持ってへんし」
二人の言葉に曖昧に微笑み返す。皿に盛られた林檎にフォークを刺せば、ぷつりと空いた穴から果汁が溢れ出た。しゃくりと半分を噛み切って咀嚼する。もう少し太った方が健康的だとオスマンさんに告げられてから、三食欠かさず何かしら食べなければならない。だからといって彼らのようにパンとスープとサラダと目玉焼きと、と食べられる訳では無いので、朝昼は大体野菜か果物だけで、夜は同じメニューを食べるようにしている。
トントンさんによって目の前の皿に増えていくおかずを見ながら死んだ目をしているグルッペンさんをちらりと見遣って、私はごくりと林檎を飲み込んだ。
これが私だけを狙ったもので済めばいいのだけれど、そうではなくなったなら。例えばグルッペンさんに、オスマンさんに、エーミールさんに、チーノさんに、刃を向けたら。
私は、殺せるだろうか。
「……ご馳走様でした」
「A、報告書明後日までに頼むな」
「はい、お先に失礼します」
お皿を返して、食堂を出る。自室に戻りながら、ぎゅうと拳を握りしめた。
人格が統合している感覚が強くなるにつれて、前世で培われた倫理観が邪魔をするようになる。薄々気づいていたことだ、ゾムさんと手合わせをして、スパイだった兵士を殺して、それからだ。ショッピさんとエーミールさんと話して、しんぺい神さんと兄さんと話して、昨日は考え事をしながら刺客の相手をしていた。
駄目だ。これは捨てなければならない物だ。それか制御出来るようにならなければいけない物だ。殺すべき時に殺せない人間が、軍に必要であるわけがない。彼らの役に立てるわけが無い。
ふう、と一つ息を吐く。
相手が敵なら、躊躇ってはいけないのだ。
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たむ(プロフ) - 今回で何回めでしょうか。ふと、この作品を読み返したくなり、読み終わると共に更新がされず時が過ぎていくのを寂しく思います。陽乃様の御健康を一番に祈りますがまた更新がされるのを気長に祈ることをお許しいただけると幸いです。長文失礼いたしました。 (8月23日 0時) (
レス) @page33 id: eba900a9f0 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - ひよこさん» コメントありがとうございます。キャラクター像や物語の軸が揺らがないように気をつけているので、お言葉とても嬉しいです。こちらこそ拙い作品と返信になりますが、のんびり頑張りますのでよければお付き合いください。 (2020年7月27日 8時) (レス) id: 612ba65c82 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこ - コメント失礼致します。占いツクールは設定や言動がガバガバなものが多いという偏見を持っていたのですが、この作品は全てにおいて素晴らしいなと感じました。物語に惹き込まれ、一気読みしてしまいました。拙い感想文で申し訳ございません。今後も応援しています。 (2020年7月13日 22時) (レス) id: 4949800785 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - ぴさん» コメントありがとうございます。言葉選びはかなり気を遣うので、そう仰っていただけると報われた気持ちです。コメントは気力に直結する部分もあるので、本当に有難く思いつつ返信しています。お気遣い本当にありがとうございます、私のペースで頑張ります。 (2020年6月13日 9時) (レス) id: 0fb3ccf51e (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 暁レイさん» コメントありがとうございます、なかなか軸からブレないよう書くのは難しいもので、苦労する部分もあるのでとても嬉しいです。引き続きのんびりと頑張ります。 (2020年6月13日 9時) (レス) id: 0fb3ccf51e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年6月2日 20時
