13.医務室 ページ13
「それ銃創だよね、どうしたの？」
「……」
医務室に着き、渡されたガーゼを傷口に押し当てながら、どう話せばいいのか迷う。ここで嘘を吐くべきか、それとも正直に言うべきか。
消毒液や包帯を手際よく準備し終えた彼は、部屋の隅の椅子に腰掛ける私の前に膝をついた。
「今はパン屋さんで働いてるんだっけ？ こんな傷、早々つかないと思うんやけどな」
嘘は、出来ることなら吐きたくない。後々の自分の首を絞めるだけだからだ。けれどここで黙りを続けても、彼が許してくれるとは思えない。
「……」
これが夢なのか、そうでないのか。
それすら未だに曖昧な今、何をどう説明したところで、自分でだってちゃんと理解出来やしない。
ただ、誰かに話して落ち着きたかった。
記憶を思い出して、まだたった数時間。その間に多くのことが起こりすぎて、感情が全く追いつかなくて。
「……しんぺい神様は、」
「うん」
「並行世界とか、前世とかって、信じられますか」
雑面の下はどうせわからないから、見る気すら起きなかった。
そっと私の手を取り、ガーゼをどかして傷口を見ながら、彼は小さく唸る。血はいつの間にか止まっていた。
「無いことの証明は出来とらんけど、それがあることの証明にはならないよね」
「……」
「逆にあることの証明ができとらんって事実が無いことの証明になる訳でもないし、存在しないことの証明は存在することの証明より難しいけど、この場合の存在証明は多分同じくらい難しい｣
「……悪魔の証明」
「うん、あるかもしれんしないかもしれん、俺はどっちともわからんかな」
でも、あったら面白いこともあるかもね。
そう言いながら消毒液を含んだ脱脂綿が傷口に触れて、びりっと電気が走ったような痛みに、小さく体が震えた。
「しんぺい神様」
「ん？」
「私の言葉に、1つ嘘があります」
見抜いて、そうしたら好きにして。あなたには、ここの幹部には、そうする権利がある。
そんなことを思いながら、治療が進む腕をぼんやりと見つめた。
「……私、α国の軍人なんかじゃなかったんです」
「そっか」
「暗殺依頼を受けたんです、総統閣下の」
「うん」
「ダクトから飛び降りて、トントン様もいらしたけれど私の方が速くて、総統閣下を殺せたんです」
「うん」
でも、多分前世の記憶なんでしょうね、それを、よりによってその瞬間に思い出してしまったんです。
前世の友人が、一番大切だった友人が、総統閣下に救われていたんです。
殺せなかったんです。
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陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
