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……
この一ヶ月、面白いことも面白くないことも何ひとつ起こらず、ただ平穏な日々が過ぎていった。
鶴丸国永はどこへ姿を消したのか教室にすら現れないようになり、ヒビが入っていると診断を受けていた器の状態も快復に向かっている、らしい。“らしい”というのはやはり他人の身体であるためか、私の感覚が鈍くなっているせいで状態が本当であるのか全くわからないのだ。
「それで、私はここから出られるんですか？ 先生」
「うんうん、いい感じ。これなら大丈夫じゃないかな」
「はあ、そうですか」
何をしろと言われることもなく、ただ一日一日を過ごしていただけで本当に卒業資格が得られるとは。胡散臭い顔をしているくせに、この男は意外と親身になって話を聞いてくれていた、ような。……いやいやそんなわけないか。
「あの、ひとつ訊きたいんですが」
「鶴丸国永ならもうこちらへ戻ってくることはないとと思うよ」
「へえ、そうなん＿＿え？」
「いやだから、もうきみがまとわりつかれることはないってことさ」
私の言葉の先を読んだかと思えば、なんでもないような顔をしてとんでもないことを言いやがった。この男はやっぱり嫌いだ。
「きみの器を壊す脅威は去ったってわけ。さあ、そろそろ準備した方がいいんじゃないかい？ きみの旅立ちを祝ってくれる仲間がいるわけだし」
「その仲間、どれだけいるんでしょうね」
「ひねくれてるねえ、可愛くない子になったもんだ」
「私は元からこうですが」
ここには一部“普通”の人間もいる。ごくわずか、ほんのひと握り。私のように高熱を出したものの回復した人達がほとんどだ。他はよく知らない。
まあ、何はともあれここを出ることができれば私の目的の六割は達成されたことになる。後は平穏な高校生活、大学生活を過ごし、大手の企業に就職することができれば万々歳だろう。
……本来、現代人と審神者や刀剣男士は交わってはいけないとされている。この校舎では私のように年に一人か二人、狭き門を通り抜けた上で現代人と同じように生活できる人がいる。それ以外は外れた歯車の代わりを見つけ、同じような時間を十年、二十年と過ごすだけだ。何も変わらない。この世界の仕組みも、私達の生活も。
だから抜け出した。仮初の自由から脱獄しようと決心した。そしてこの判断は間違っていないと器(彼女)も肯定してくれている。これでいい、これでいいはずなんだ。
……
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作者名：木浪 | 作成日時：2020年4月21日 15時
