擬似恋愛【鶴丸国永】 (ページ20)

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それから数年と少し。“約束”は果たされた。器は元の場所＿＿彼女の元へ戻り、私は八年振りに自らの身体と再会した。再会したというのはおかしな表現ではあるが、この言葉以外に適切なものが見つからない。

容姿も、声も変わった。身体がバラバラになるような軋みも痛みも感じない。もういつ身体が乗っ取られるかという恐怖を感じることもない。……医者は私が思っている以上にストレスを抱えていたと言っていたが、どうなのだろうか。

それにしても、魂に合わせて器を成長させる仕組みというのは不思議な話だ。今までずっとこの身体で生きていたような感覚さえある。身体が軽い。

＿＿審神者と刀剣男士の歴史についてというタイトルの本を閉じる。……流し読みしていたけれど、あまり信用できる情報はなかった。つまらなかった、とはさすがに言えないけれど。

私は今、大学内にある図書館で週に一度こうして刀剣男士や審神者について調べている。何を隠そう、身体が自分のところに戻ってきてから、急に古巣に帰りたくなったのだ。散々嫌悪していた古き時代の研究は思っている以上に進歩していた。だから戻ろうと思った、なんて先生(あの人)が知ったら笑うだろうか。それとも、自分の手のひらで間抜けに転がされていた私を哀れに思うのだろうか。どちらでもいいと思った。結局どちらも同じことだから。

「隣、いいだろうか」
「はい、どうぞ」

声のした方を見てしまうというのは人の心理か、それとも、私の性格か。とにかく、相手を見上げようとして＿＿固まった。は、と薄く息が漏れたが、相手は気づかないのか気づけないのかわからない表情をしている。

「珍しいな、こんなところで古き時代の情報を漁っているというのは」

よっぽどの物好きか暇な天才のどちらだ？と呑気に言葉を紡いでいるのは、数年前私を悩ませた元凶にして件(くだん)の当事者であった＿＿鶴丸国永その人だった。

……