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　　ー０２° ページ47

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「あのねこれ、藍ちゃんがくれたの。私我慢できなくて着く前に食べちゃったから、他のみんなで1個ずつ分けてね」

　帰路で考えた台詞を一言の間違いもなく紡いでみせたAは最後に無邪気な笑いを唇に浮かべた。完璧に騙すことができたと確信したのだ。うまくいったはずだが、迅はAのその顔から視線を外さないままなんの返事もよこさない。
　自身の隠蔽を探るような目線に内心戸惑うも負けじとAは迅に問うて話を無理矢理進めようとする。

「みんな苺好きだよね？こなちゃんとか陽太ろ、」
「Aちゃん」

　本人自身は気づかない程度の早口になっていた言葉の語尾を迅は遮り、雑誌とお菓子をテーブルに置いてAに近寄った。ぎこちない微笑から鳩が豆鉄砲を食ったような表情に切り替わったAは「な、なあに？」と明らかに迷いながら返す。
　Aは知らないことだが、Aは嘘をつくときは必ず目線を左側にずらす。つまり嘘をつくのが下手、というかぎこちなさすぎる表情も相俟って非常に分かりやすい。なのでこの問いへのAの答えは、

「本当に自分の分食べたの？」
「……うんっ、おいしかったよ」

　──嘘だった。

　玉狛への貰い物を自分だけ先に食べたりなどAは絶対にしない。そもそも、Aの手の上にあるパックの中に、先に食べた(と嘘をついた)苺にあったはずのスペースが見当たらないのだ。9つの苺は余白なくぎゅうぎゅうに詰まっていた。

「嘘つき」

　ほんの少しの加虐心もあったが大半は可愛らしいなという気持ちを込めて発した四文字にAは過剰に反応する。言い詰められているような状況に緊張して赤くなった顔が必死に弁明した。

「う、嘘なんかついてない！他のみんなにはごめんなさいだけど、本当にちゃんと食べたもんほんとだもん、」

　その反応だとますます嘘っぽいじゃん？耐えきれない笑いを吹き出しそうになる迅だがここで笑ってしまえばAがしゅんと俯いて言葉に迷っている未来が落ちてしまう。自分より他人を優先してくれた厚意を台無しにはしたくなかったので腹に力を入れなんとか耐えた。

「じゃあAちゃん、ちょっとついてきて」

　なにが「じゃあ」なのか。途端に混乱したAを手招きして迅は冷蔵庫の方へ移動する。ひたひたぺたぺたと二人がそこの前につくと迅は扉を開いてみせた。

　牛乳、野菜、プリンなど。その中に紛れてあったのが、Aが持っているのと同じ、苺のパックだった。