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序奏° ページ44

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　Aは頻繁にメイントリガーの四番目を変更したがる。理由は至極単純楽しいから。
　というのは建前である。

　射程や戦術を増やす為という真面目な目的が第一であるが、一日のどこかの時間でトリガーをセットすることはAにとって日課のようなものだった。この頃は射手トリガーをよく使用しているが、以前だと弧月やスコーピオンなどが装備の候補に入っていたこともある。
　その四番目の枠を一部の隊員から「お楽しみトリガー」「なにがでるかな」「ドキドキルーレット」「明日の四番目アステロイドにアイス賭ける」などめちゃくちゃな言いようをされていることは当然知らない。

　午前から担当する防衛任務の前日 Aはいつものように「四番目」を思案していた。机上にある前面ホルダーが外されたトリガーの内部には剥き出しになった七つのチップが二列に並んでいる。候補は通常弾、炸裂弾、変化弾。Aはチップケースから一つを取り出した。
　通常弾のようだ。ちなみに決め方は直感。夕方隊室で「成海の明日の四番目」について話していた太刀川はめでたく出水からアイスを奢ってもらえることになるだろう。

　小指の爪程の大きさしかないトリガーチップは素手で触ろうとすると皮脂や埃がつくので専用のピンセットで扱わなければならない。その慎重さを要する動作はAの苦手分野であり、掴めたと思ったチップは逃げるようにピンセットから飛び跳ねてしまった。

「あっ、」

　咄嗟にチップを掴もうと伸ばした腕が机上の何かを撥ね除けてしまう。ガンガン、とバウンドまでついた鈍い衝撃音が床のほうで飛び上がった。Aは背中で冷や汗を噴かせる。

「やだ最悪……」

　怖々と床を見下ろしてAは声を震わせた。外していた前面ホルダーはおろか元々のチップ、しまいには機能や設定が集約された基盤までもが床に散らばった惨状に悲鳴も出ない。

　どれがバッグワームでどれがグラスホッパーだろうか。全く分からない。自分でトリガーを弄るわりに機械系に疎いAにとってはこれを元の状態に戻すことは無地のジグゾーパズルを完成させることと同じくらいの難易度だった。地面に落ちた程度でこんな酷い有様にはならないはずだが分解途中だったことが最大の原因である。

　この瞬間がなにかの未来を確定させる決め手となったことなど到底知らず、自力での解決は諦めて大人しく宇佐美を呼ぶことにしたAだった。