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01｜勧善懲悪の鏡像ページ1

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「近いうちに近界民による大規模な侵攻が訪れる。それに向けた防衛作戦を今から説明したい」

　頭がずんとする鉛色の曇天に覆われた町の午後一時だった。──ボーダー基地。城戸も含め彼が呼び出した全員はリビングにて巨大なテーブルにそれぞれ席についている。いくつかの空席が存在する空間が虚しい。城戸の堅い切り出しから察するこれまでにない部屋の重い空気感に、彼らは今までのそれとは全く異なる緊張を感じていた。

　その侵攻が訪れる正確な日付や門の発生位置はまだ確定できないらしいが襲撃自体は確定事項なのだと、城戸の後に迅が付け足す。既に強ばっている首をAがぎこちなく振って小南とゆりの顔を見やると、二人とも表情は不安や緊張で凝り固まっていた。彼女らの脳裏に過ぎるのはわずか半年前の惨状の記憶。いつ来るか分からない襲撃に彼らは警戒心を早々に高めている。

　その経験はないAであったが、彼女も同じような心境で膝の上に置いていた拳を堅く握った。
　しかし、ゆっくりと結んでいくその覚悟を崩さんばかりに城戸はきっぱりと放つ。

「まず、現在のボーダーの戦力で今回の大規模侵攻を鎮圧するのは容易でない。近界民を撃退したのち市内全域には甚大な被害が及んでいるだろう」
　
　凍てついた声音にAのみならず木崎とゆりの背中が硬く張った。一切の緩みなく張り詰まった空間で小南は疑心に満ち満ちた瞳に城戸を収める。その言い方、またこの間のようなほぼ負け戦になってしまうというのか。燻っている闘志に冷や水を掛けられたような思いがした小南はぐっと下唇を噛んだ。

「勿論我々は近界民の侵攻を食い止めるために尽力するつもりだ。しかし今後も今のボーダーの人員で三門市を防衛していくとすると個々の負担が大きく現実的ではない」
　
　城戸の声はAの体の内側に霜を浮き上がらせる。現実だと、これは決して嘘ではないという確かな説得力ある顔つき話しぶり全てがAの胸底に重だるい不安の渦を生んでいた。無意識に隣の迅の蒼い袖を強く掴んでいた。

「どういうこと？今から隊員の数を増やすつもり？そんなの間に合うわけないし足手まといにしかならないわよ」

　訝しむように小南が訊いた。視線の的が小南に集中する。なんら臆することなくした強い主張に、しかし小南の怪訝な翠眸に鋭く焦点を当てた城戸は至って平静に言ってのけた。

「単刀直入に言おう。今回市民にはあえて侵攻の犠牲になってもらう」