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傍から見れば、犬の名前を考えている少年の様にも見えるが、考えているのは悪魔を名乗る人の形を成した男の名前である。
明らかに異常な光景ではあるが、青年が数分も経たない内に「決めました!」と高らかに宣言すると、自信満々に発表した。
「これから仮の名として、貴方の事をハイドと呼ばせて頂きますね」
「ハイド……」
「はい! 隠し事をしている貴方にピッタリかと。その姿も、所謂仮の姿と言う物でしょう? いつか本名が明かされた時、本当の姿も見せて下さいね」
我ながら良い名前です! と得意げな顔をする青年に、男は密かに苦笑する。
(本当、何処まで分かってるんだか……)
どうやら男が見つけたこの青年は、とんでもない逸材だったかも知れない──しかも、掘り出してはならないタイプの人間だと直感する。触らぬ神に祟りなしと言うが、悪魔が触ったイレギュラーな人間はどうなるのか。誰も知る由は無い。
ヤバイの見つけて来ちゃったやと内心でごちながら頭を掻く男の前に、青年が手を差し出す。先程切った腕を不恰好に覆うマフラーの切れ端には、止血前に溢れた微量の血液が染み出し、黒いシミを作っている。
しかし、それとはまた違う、明らかに先程出来た物では無い傷痕が数カ所もあった。一部は炎症を起こして水膨れになっていたり、不自然に盛り上がって皮膚が癒着した痕もある。顔に似合わず、随分と逞しい手をしていた。
「面白い手をしているね」と皮肉めいて男がその手を取ると、青年は笑いながら「男の勲章と言う奴ですよ」と言って握り返す。
「これから宜しくお願いしますね、ハイドさん!」
「此方こそ宜しく、澄晴」
──その命が尽きるまで。
(嗚呼、これから忙しくなりそうですね……!)
(今こそ、君との約束を果たそうか)
硬く握られた手を、月は何処までも優しく照らし続けた。
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年10月15日 20時