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それに対し男が静かに頷くと、彼はパッと顔を明るくして「やりましたね!」と素直に喜んだ。
「これでお互い目的を達成する事が出来る訳ですね」
「君は本当にこれで良かったの?」
「当たり前じゃないですか。ノーリスクノーライフですよ。人生、何事も経験が一番!」
「命知らずだね」
「そうかも知れません。でも、命が大切だとは誰も考えてはいませんよ。生きていたら、誰だって当たり前だと思いますから」
成る程と男がごちると、青年は満足そうに何度も頷く。
生きていたら自ずと命の意味と有り難さを忘れる、失って初めてその重さを知るのだから。悪魔である貴方にはよく分かっているでしょう?
青年は男が思っている以上に聡明な人間らしい。単なる馬鹿でない事に、男は益々上機嫌になった。
(俺も、君が契約者で良かったよ)
何故なら男は、青年のその異常な探究心と知識欲に惹かれたのだから──
「あ」と唐突に声を漏らした青年は、ぐりんと男の方へ顔を向ける。
「そう言えば、貴方の名前は何ですか?」
「教える事は出来ない」
「それは残念です。もしかして弱点だからですか?」
「それはそうと君の名前は?」
「おや、図星ですか」
弱点と言えば弱点かも知れないと男は思った。
悪魔の名には悪魔本体の動きを拘束し操れる程の力が込められており、時として悪魔の魂を左右する灯火の役割も担う。もし他者に知られればどうなるか、誰でも容易に想像する事が出来るだろう。その相手が悪魔を使役したい者や祓魔師であれば尚更である。故に悪魔達の間では暗黙の了解として、その名を明かす者は居ない。
無論、図星を突かれた時点で詳しく教えてやる義理は無い。頑なに口を閉ざし続ける男に、青年は「頑固ですねぇ」とニヤニヤしながらも、半ば諦めた様に一度だけ溜息を吐いた。
「まぁ、後でじっくりお聞きしましょう。僕の名前は篝 澄晴と申します」
「篝 澄晴……良い名前だね」
「有難う御座います。しかし、困りましたね。貴方の事は何とお呼びすれば良いのか……」
識別する名前がなければ、個人を特定する事は出来ない。況してや男には青年に対して名乗る別の名は無いし、今後考えるつもりもない。さすれば、この問題の解決方法は自ずと一つしか無くなる。
男は青年の眼前に人差し指を立てながら微笑んだ。
「なら、君が付けてよ。僕の名前」
「良いんですか!」
「良いよ」
男からの提案に、青年は楽しげに考え出す。
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年10月15日 20時