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その風圧にフワリと舞うカーテン。そして、慣性の法則に従う様に手から離れる携帯がガタっと音を立てて落ちた。
受け身が取れなかった青年は、頭を摩りながら起き上がってベランダの手すりを見れば、男は王様の様に堂々と優雅に足を組んで座っていた。
「イタタ……もう、どうなって……」
「……君は終焉の樹に興味があるの?」
「終焉の樹? 何ですか、それ…………あ、もしかして、例の巨大植物の事ですか?」
「うん。この携帯に映ってる植物の名前」
男が徐にベランダの床を指差す。そこには先程の転倒で宙に投げ捨ててしまった携帯が、東京の現状を空撮した映像を流していた。
青年が這い蹲る様にしてベランダに落とした携帯を拾い上げると、液晶の無事を確認して画面をスリープ状態にする。「あれ、もう見ないの?」と男が質問するが、それには答えず青年は真っ先に思った事を口にした。
「貴方は何者なんですか? 巨大植物にも詳しそうですし……」
「質問返しは良くない。でもまぁ、それが普通だよね……良いよ、答えてあげる。君が信じてくれるかどうか分からないけど」
「信じてくれるか……ですか?」
青年が首を傾げると、男はニッコリと笑って答える。
「俺、悪魔なんだよ」
「悪魔……なんとオカルトチックな」
「そうだね。でも、これは紛れも無い真実。揺らがない事実だよ」
「成る程、それはとても興味深いですね! では、何か証明出来る物はありますか?」
「そうだなぁ……鋏みたいな鋭利な刃物とかある?」
「えっと……デザインナイフなら」
青年は部屋に戻って机に置いていた筆箱からデザインナイフを取り出し、窓枠から顔を覗かせ差し出すと、悪魔を名乗る男は漸く手すりから立ち上がり、それを受け取った。
「どうするんですか? まさか、自傷するつもりですか?」
「そのまさかだよ」
軽く袖を捲り上げ、手慣れた様子でナイフのキャップを外すと、男は躊躇無く刃先を自分の手首へ押し当て、ザックリと深く深く抉る様に斬り付けた。ドロリと赤い液体が溢れ出し、男が着ていたコートの裾を容赦無く汚していく。
傷口はお世辞にも綺麗とは言えず、刃が無い部分で強引に引き裂いた為か皮膚は引き千切れて炎症を起こし、所々に肉が剥き出しになって晒されている。亀裂が入ったかの様に汚い切り口で、恐らくそう簡単には治らず、治ったとしても確実に痕を残す傷口だった。そのあまりの痛々しさに、青年は思わず自分の傷一つ付いていない綺麗な手首を摩る。
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作者名：十二月三十一日 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年10月15日 20時
