黒に染めあげる(gr) ページ1
「失礼致します、総統閣下。」
「…あぁ、入れ。」
この声はAに違いない。
書類の山に目が眩む深夜、こんなことは非常に有難かった。メイドとして我が国で働かせてやっているAは俺の一番で、俺が初めて目に入れてからはすぐに昇進させ俺の身の回りの事をさせるようにした。
「此方が夕食です。…………ッ！」
「ん？なんだ。照れてるのか？俺としても嬉しいゾ」
俺のデスクに几帳面に皿を並べるその手に髪に、全てに魅了され、Aの腰を引き寄せていた。男の力には勝てず暫くするとだいぶ俺の言いなりになるように力が抜けた。
「やめてください。総統閣下。私はただのメイドです。貴方とは違います。」
「総統命令、委ねろ。」
バランスをとるためデスクにつかれた白い手袋をはめたAの手が、美しすぎて。抱き寄せた方でない手でそれを手に取る。
バランスを崩したAは俺に倒れかかるしか無い。
耳元で軽く囁けばこいつの身体は素直に反応する。それを言えば、それは貴方のせいだと好意のない振りをするAを心から求めている。
日光に照らされいつもの黒髪が橙色のように見えた。それがあまりにも綺麗で、手を伸ばす。サラサラと崩れる髪を耳にかけてやると、想像もしていなかった冷たさが。
「お前、なかなかやるな。」
昇進時に俺が送った黒く輝くピアスがAの耳元でキラキラと俺を誘う。
「私は言葉より行動が、好きですね。」
俺に目を合わせずAは体勢を戻し乱れたメイド服をまた慣れた手つきで直していく。今になって俺もやっと夕食に目をやる。…………和食か。珍しい。貢物に入っていたのか。
「ねぇ、」
箸に手を伸ばそうとしていた俺の手を、Aのほうが掴む。そしてそれを胸元にもっていく。いやちょっと待て待て俺の俺が死ぬ。それは予想外すぎる。
「………ん？」
「ねぇ、貴方色に染めて。」
Aの首元には黒いネックレスが。あげた記憶はない…………となると…。
「俺を、想って買ったのか？」
「うるさい、」
顔を赤らめるA。愛情表現が苦手な方こいつの精一杯の愛の言葉。俺は俺の持つ全ての愛をもって、こいつを染め上げてやろうではないか。
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作者名：まどか | 作成日時：2021年5月22日 6時
