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STORY 36 ページ36

――そして、マーロンは行方を眩ませた。


 それから二年後、川では水審判が行われており、トムは民衆に混じってそれを見物していた。
 二年経った今でもマーロンは見つからず、彼が居なくなった理由は誰も知らない。だがこの一件でずっと心を痛めていたトムは何となく彼の気持ちが分かってしまうような気がした。
 マーロンの母親は魔女として殺された。スティーブから話を聞いていたこともあって最初こそ彼女が魔女と信じて疑わなかったが、もしかしたら……自分は何か大きな罪を犯してしまったのかもしれない。それならマシューは? 彼を人殺しだとは思いたくない。それにもし、そうだとしても彼を嫌いになれない自分が怖かった。
 トムは距離を置いて隣に立つマシューに目をやる。首にかけていた十字架がなくなっているのが妙に気になった。

「清き水は魔女を拒む。今から彼女を水に入れ、もしも水に受け入れられずに浮かべば魔女。沈んだなら無罪だ」

 この説も考えてみれば滅茶苦茶かもしれないとは思うのに自分は何も言わない。いまや友人となった彼をどうしてもペテン師だと認めたくなかったのだ。
 両手を後ろで縛られ、ロープで繋がれた女が水に落とされる。それを見下ろすマシューの横顔はやつれているように見える。

「あ、おい!」

 誰かの声にそれまでぼうっとマシューを見つめていたトムが川のほうへ視線を移すと、つい先程投げ込まれた女が水から顔を出して必死に酸素を取り込もうとしていた。
 そもそも工夫すればたとえ縛られていても浮くことは出来るのだが、マシューの出した答えは彼女を救ってはくれなかった。

「この女は魔女だということが分かった。従って、明日の朝処刑する」

「嫌よ! 私は魔女じゃない! こんなやり方……」

「黙れ。この後に及んでまだ言い逃れをするつもりか。ジョン、独房に……」

 そこで彼はジョンがもうこの世にいないことを思い出すと目元を押さえ、俯いたまま背後に控えているメアリーに片手で指示を出した。すぐさま彼女は哀れな女を引きずってその場を去る。

「私の部下であったジョンは……魔女に殺された。今はただ、彼の無念を……」

 クラウディアの時とは違い、今回は演技などではなかった。彼は一言、審判の終了を告げると民衆に背を向けて歩き出した。
 トムは少しの間迷っていたが、彼の後を追うことにした。もしかしたら何も話したくないかもしれない。それでも、少しでもいいから助けたいと思った。

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田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» ただでさえ無実の女性を平気で殺しまくってる人ですからね。どこかもう自分でもどうしようもできないほど壊れてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 田無苑珠さん» もう色々とアレな人になっちゃってますねミスター・マシュー (2017年6月5日 20時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» 読んでくれてありがとうございます!はい、言いましたw……と、言っても実は恋愛という意味ではなくて、本人もよく分からない感情をマーロンに抱いてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 面白いです!マシュー、……あ、愛してる…って言いました……? (2017年6月5日 10時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - ロイヤルストリートさん» ありがとうございます!好きになってくれて嬉しいです (2017年5月23日 13時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2017年5月5日 13時

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