STORY 27 ページ27
ロザリアは死んだ男を仰向けに横たえる。血を流しているのを除けば彼は眠っているだけのようにも見える。何の感慨も湧かなかった。父親が死んだのだと知っても悲しくなかったし、かといって嬉しかったわけでもない。ただ、もう少しだけ傍にいたいとは思った。
「行かなきゃ」
自らに言い聞かせるように呟いて立ち上がり、毛布を羽織って振り返らずに牢を出る。未練など残したくはなかったから。
おそるおそる階段を上がると驚くほど人が居ない。見張りの兵士の一人は居てもいいものだが。これでは罠だと考えてもおかしくはない。
深呼吸して足早に出口の扉へ向かった。一か八かだ。そうっと扉を開けると人で賑わっている通りの左側に人気のなさそうな小さい小路がある。彼女は音を立てぬよう外へ出るとさりげなさを装いながら小路へと近づき――一気に駆け抜けた。
*
夕方、トムは一人いつもの酒場の隅の席で呑んでいた。魔女狩りが始まって以来、彼の心には平穏が訪れた。自分を笑い、悩みの種となっていた女達は次々に連れて行かれ、戻ることはなかったのだから。全てはマシュー・ホプキンスのおかげだ。ここ最近彼のことで頭がいっぱいだった。
「失礼、相席してもよろしいですか?」
「どうぞ」
顔を上げ、快く返事を返したトムは心臓が止まりそうになる。そこには偶然にも彼が考えていた男が居た。
「ありがとう。お一人で?」
「ああ、まあ、はい」
トムは緊張でどうしてもしどろもどろになってしまう自分に苛立った。尊敬している人物が話しかけてくれてるというのに情けないことこの上ない。
「あなたのお陰で森の奥に住む魔女を見つけることが出来た。感謝していますよ」
「え、あ、はい! お、お役に立てて幸いです」
あまりにも嬉しくて彼は心の中で叫んだ。相席出来ただけでなくこんなことを言ってもらえるなんて願ってもない幸福。もしかしたら自分は近いうちに死ぬのだろうか、なんてことまで考えてしまう。
「あの……! 他にもお役に立てることがあれば、協力しますから」
「ありがとうございます。そうだ、えっとその……急になんだと思うかもしれませんが」
「? はい」
「個人的にあなたとは仲良くなりたいと思っていたので、その……友人になってくれませんか?」
トムはすんでのところで失神を免れた。今、この人は何て……まさか、まさか彼が……。
「光栄です」
頭の中がぐるぐるとする中でトムに言えたのはそれだけだった。
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田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» ただでさえ無実の女性を平気で殺しまくってる人ですからね。どこかもう自分でもどうしようもできないほど壊れてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 田無苑珠さん» もう色々とアレな人になっちゃってますねミスター・マシュー (2017年6月5日 20時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» 読んでくれてありがとうございます!はい、言いましたw……と、言っても実は恋愛という意味ではなくて、本人もよく分からない感情をマーロンに抱いてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 面白いです!マシュー、……あ、愛してる…って言いました……? (2017年6月5日 10時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - ロイヤルストリートさん» ありがとうございます!好きになってくれて嬉しいです (2017年5月23日 13時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2017年5月5日 13時