STORY 2 ページ2
「それにしても、そんなんじゃやっぱり母親のことはあまり好きにはなれなそうだな」
「嫌いじゃないよ。でも……嫌いじゃないけど嫌」
無音の夜の町に風が吹いて木の葉が触れ合う音だけが聞こえる。どこか心細くなった少年はさりげなく男の近くまで移動する。
「父親は心配しないのか？」
「何回もやってるから……ここに来てることは知ってる」
「ああ、そう……お前、名前は？」
「マーロン」
「マーロンね……何だって？」
男は思わず少年の顔を見る。その名前には聞いたことがあるが、これは言うべきではないだろう。『ちょうど今朝お前の母親が俺の悪口を言ってるのを聞いた』なんて。それにしても、あの女の息子か。尚更この子も大変だな。
「あの、あなたの名前は？」
「マシューだ。一応これでも弁護士やってる」
「べんごし？」
聞き返してたらマーロンは何かを思い出して表情を曇らせる。牧師さまの息子で弁護士。確か今朝……。
『牧師さまは良い人だけどさあ、息子の方は駄目だよねえ』
『そうそう。弁護士なのにろくに稼げてないし結婚もしてない。女が寄りつかなくても有能ならいいけどあれじゃあね〜』
『やだちょっとあんた、その息子がそこにいるんだよ。聞こえちまうだろ？ あんまり言っちゃ可哀想だよ』
『アハハハハハハ』
夜でなければ顔が青ざめていることに気づかれただろう。息が詰まるような沈黙の後、マーロンがチラリとマシューを見ると目が合い、慌てて逸らす。この人も同じことを考えてたんだ。
「弁護士は、もう辞めようかな」
マシューは無表情のまま、ポツリと呟く。
「教会継いだって、俺は親父にはなれない。何もかも違いすぎる」
マーロンはなんだか泣きそうになった。それはマシューが可哀想だと思ったからなのか、自分の母親が彼を追い詰めたからなのか。どちらの意味もあるのかもしれない。
「あの……ママがひどいこと言ってごめんなさい」
「気にしてない」
それ以降、お互い黙り込んでしまう。マーロンにはその沈黙が辛かった。このままだとマシューはうんざりして帰ってしまうのではないか、そうしたら二度と話せないのではないかという気がしてならなかった。それならせめて言えるうちに……。
「ここに来たのは……」
「ん？」
「ここに来たら、またあなたに会えると思ったから……」
マシューは少しだけ驚いたような表情を浮かべた後、「そうか」と言ってぎこちなく笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» ただでさえ無実の女性を平気で殺しまくってる人ですからね。どこかもう自分でもどうしようもできないほど壊れてるんです。 (2017年6月5日 20時) (
レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 田無苑珠さん» もう色々とアレな人になっちゃってますねミスター・マシュー (2017年6月5日 20時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» 読んでくれてありがとうございます！はい、言いましたw……と、言っても実は恋愛という意味ではなくて、本人もよく分からない感情をマーロンに抱いてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 面白いです！マシュー、……あ、愛してる…って言いました……？ (2017年6月5日 10時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - ロイヤルストリートさん» ありがとうございます！好きになってくれて嬉しいです (2017年5月23日 13時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：田無苑珠 | 作成日時：2017年5月5日 13時
