Episode.163 ページ21
「私もすごいツイてないんだ」
そう言って、自分の不幸話を沢山した。自慢なわけじゃないけど、不幸の量だったら負ける気がしなかったから。ドッピオは目をぱちくりさせてその話しを聞いてくれた。そして、本当に運がありませんねと苦笑する。
「護身術を身につけたりしたけどさ、結局どこまでいったって不安は消えないんだ。たとえ未来が見えたって、きっとずっと不安なまま」
その言葉に、ドッピオが少し反応したのをAは見逃さなかった。その理由は分からなかったが、顔色の悪いドッピオに少し心配になる。
「君も、不安?」
「僕にとって大事な人がいますが、その人を思うと不安になることはよくあります」
「私はそういう時ね、自分にできることを考えるようにしてるんだよ」
Aのその言葉に、ドッピオが目線だけこちらに寄越す。別に期待なんかしていないという目だが、何も言ってこないということは、続きを待っているんだろう。
「動かずにあれこれ考えちゃうから、だからまずは動いて、それから考える。不安がなくなるようにじゃなくて、不安が軽くなるように」
「それで、動いて悪くなったら?」
「でも、何もしなかったことを後悔するよりマシ」
腕時計を確認して、そろそろ行かないとSPW財団の人達に文句を言われそうだと思う。立ち上がって、まだ石段に座ったままのドッピオを見下ろす。少年は何かを考えているようだった。Aは少年に手を振ると歩き出した。しかし、すぐ後ろから声がかかる。
「不安な要素は、行動で取り除く」
ドッピオの声には芯があった。どうやらさっき話していたことを彼なりに考え、落とし込んだようだ。振り返って彼の顔を見ようとした時、ビリッと腹部に痛みが走る。それはじわじわと痛みを増していき、痛む部分に触れると手が赤くなった。
そこでようやく、刺されたのだと気が付いた。
「ありがとうございました。確かに、行動するのは良いことですね」
「な、なんで……」
「貴方は優しい人ですが、ボスについて知ろうとするなら殺します。それが行動するということです」
ボス、という言葉に驚いたが、ナイフを引き抜かれ倒れてしまう。そして、彼がAの隣に立って、そのナイフを、今度は心臓めがけて振り下ろす。
「もっと違う形で、貴方と知り合いたかったです」
ドッピオのその表情を目に焼き付けて、ナイフが振り下ろされるのを見るしかなかった。
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Crow(プロフ) - 定期的に読みたくなっちゃいます。5、6周はしてるから内容覚えちゃいました笑 これからの活動も応援してます (2020年2月9日 15時) (レス) id: e5ce766b8a (このIDを非表示/違反報告)
まどろみ(プロフ) - るこさん» こんな何度も感想下さって本当に有難う御座いますッ!お互いお疲れ様です!いつかリメイクした作品も読んでいただけると嬉しいですm(*_ _)m (2019年2月25日 23時) (レス) id: 2cd0a82a72 (このIDを非表示/違反報告)
るこ(プロフ) - 完結おめでとうございます!!毎度のこと一つ一つのお話が面白く、描写の仕方や、感情の表現の仕方などとても凝っていて、本当におもしろく話に引き込まれました。そして本当にお疲れ様でした!!番外編楽しみにしていますね!!! (2019年2月25日 17時) (レス) id: c7737debdf (このIDを非表示/違反報告)
まどろみ(プロフ) - ごみさん» ありがとうございます!面白いと言ってもらえて嬉しい(泣)番外編もお楽しみください<(_ _)> (2019年2月25日 17時) (レス) id: 2cd0a82a72 (このIDを非表示/違反報告)
ごみ(プロフ) - 完結お疲れ様でした!途中から見始めましたが本当に面白かったです!番外編楽しみにしてます! (2019年2月25日 16時) (レス) id: 83e9aedb9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まどろみ | 作成日時:2019年2月23日 20時