． ページ43
一瞬、幻聴かと思った。でもそれはあまりにも現実味を帯びた切羽詰まった声で、声の主は確かめるまでもなくビルだった。一瞬振り返り、走り出す。
「A！ 姉さん！ 待って──」
私はすぐに息が上がってしまって、ビルはあっという間に私に追いついてしまった。いつしか、ビルの一歩は私の一歩を越していたみたいだった。膝に手を付き、その場で深呼吸を繰り返す。
「姉さん、あの置き手紙ってどういうつもり？」
「……どういうつもりも何も、そのままだよ。私はもう金輪際、みんなとは関わらない」
「何で？」
──何で、か。たぶん、本当に家族がいる人には、どんな説明をしても理解してもらえないだろう。私は誤魔化すように話題を変えた。
「ビルも成長したよね。あっという間に追いつかれちゃったよ」
肩を竦めて笑ってみたが、ビルは全く笑ってくれなかった。私の笑みも自然と消えうせる。
「そうやって言えるくらい、姉さんは僕の近くにいたんだ。分かってる？ ──なのに家族じゃないなんて、言うなよ」
ビルの握りしめた拳から、決意のようなものが滲んで見えた。でも、分かってない。全然、分かってない。
「本当に血が繋がってる人がいるビルには分かんないよ。あの家にいて、確かに楽しいけどなんだか私だけ違う気がして。家族、なんて言われても素直に認められないよ」
「──だったら！ ……だったら、家族じゃなくていい。家族じゃなくていいから、Aとしてここにいてほしい」
ビルの涙ぐんだ声が、鐘が撞かれたみたいに私の心に響く。家族じゃなくていい、と口の中で繰り返す。その言葉は私に不思議な力を与えてくれた。家族じゃなくても、ここにいていいんだ。
「……うん、ありがとう。私、本当はここにいたいよ。一人暮らしなんて、まだ寂しいもん」
「僕も、姉さんがいない生活なんてまだ考えられないよ。よし、ママにバレないようこっそり帰ろう」
私がこれからもいたい場所へ、着実に歩いていく。
「──あのさ」
「何？」
私はちょっと不敵な笑みを浮かべる。
「ビルってシスコンだよね」
「え？！」
＿＿
しばらく前から書きたかったやつです！ 最後の最後に夢主が自分のことをどんな形であれシスター(姉)と認めることが出来ているのがポイントです。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狸ノ木(プロフ) - そると。さん» コメントありがとうございます！ 私も結構気に入っている話なのでそう言っていただきとっても嬉しいです……！ たぶんころっと落ちちゃいますね☺️(そんな機会があればですが！) (2022年4月5日 17時) (
レス) @page37 id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
そると。(プロフ) - 最後のジニーのお話...めっちゃ好きです...あんな言われたら落ちるしかなくない...？？？ (2022年4月5日 1時) (レス) @page36 id: 49e4342c2d (このIDを非表示/違反報告)
狸ノ木(プロフ) - 弁当にトマト入れないでさん» コメントありがとうございます〜！！こんなに素敵な言葉を頂いてもいいんでしょうか……すごく励みになります😭してみたされてみた、また書きたいので出すと思います！ 楽しみにしてて下さい💞 (2022年2月15日 7時) (レス) id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマト入れないで - してみたされてみたまた出して欲しいです！無理だったらすいません!!お話作るの天才すぎ!!めっちゃいいお話だらけ! (2022年2月14日 22時) (レス) id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマトを入れないで - 私もパーシーと、オリバー大好きだから主さんのお話大好きです！ (2022年2月14日 22時) (レス) @page16 id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
