いつかはつま先に / Ginny ページ35
今日もこの王国は平和で、事件ひとつ起きない。太陽も安心して雲とくつろいでいる。日曜日の昼下がり、私は母さんの代わりに街の市場に夕飯の材料を買いに向かっていた。春の到来を感じさせる匂いを肺いっぱいに満たしながら、手元のバスケットを揺らして歩く。この角を曲がれば大通りが見えて──
「ピアノのお稽古なんかつまんないのよ!」
「お嬢様! お待ちください!」
なんだか大通りがざわついている。こちらに向かってくるは疾走している女の子。私が着たこともないバルーンスカートの裾をたくし上げながら走っているそのさまはまさにお転婆。
「……あっ!」
あの顔には見覚えがある。肩までの綺麗な赤毛。端正な顔立ちとそばかす。王族の唯一の王女様、ジニー様だ。でも、そんな人がなぜこっちに向かって──しかも、私の後ろに隠れようと?!
「な、な、何ですかぁ?!」
「今やっとあの人たちを撒いてきたの。静かにしてっ、もうピアノの稽古なんて懲り懲りなのよ」
ジニー様は民家の裏側に私を連れ込み、家の裏口の階段にどさっと座り込んだ。誰の家かも知らないところにお邪魔して大丈夫なのかな……。
「あ、あの……ジニー様もそういうお転婆、っていうか、普通の女の子みたいな一面があるんですね」
ジニー様の口角が不敵に上がる。やっぱり失礼なことを言ってしまったのだろうか。慌てて謝罪しようとすると、口元に人差し指を当てられた。しー、みたいに。
「ずいぶんと面白い口の利き方をするのね」
「っ、それは……ゆる、ゆるしてくださ──」
「だから、静かに。あいつらが来ちゃうでしょ? ねぇ、それよりあたしの言うことを聞いて」
なんでしょう、と震える唇で呟いた。ジニー様がそんなことを聞いていたかどうかは分からない。ジニー様の褐色の瞳が私のことを頭の上から爪先まで睥睨する。品定めするみたいに。
「あたし、あなたのことを専属のメイドにするわ。ねぇ、いいでしょ? まぁ、平民に拒否権はないんだけど──」目と鼻の先にジニー様の顔が。「──それでも、一応聞いてあげる。どう?」
「私、私には私の生活があるので……」
「あたしのこと、手に入れたおもちゃを何の手入れもしないまま所有するやつだと思う?」
おもちゃ、という言葉に動揺してしまう。気付いたら、鼻の頭に妖艶なキスを落とされていた。頭がちかちかする。
「──ちゃーんと、磨いて綺麗にするわ」
最期がこんなだったら、なんて。 / all→←牙の深さは愛の深さ / George
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狸ノ木(プロフ) - そると。さん» コメントありがとうございます! 私も結構気に入っている話なのでそう言っていただきとっても嬉しいです……! たぶんころっと落ちちゃいますね☺️(そんな機会があればですが!) (2022年4月5日 17時) (レス) @page37 id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
そると。(プロフ) - 最後のジニーのお話...めっちゃ好きです...あんな言われたら落ちるしかなくない...??? (2022年4月5日 1時) (レス) @page36 id: 49e4342c2d (このIDを非表示/違反報告)
狸ノ木(プロフ) - 弁当にトマト入れないでさん» コメントありがとうございます〜!!こんなに素敵な言葉を頂いてもいいんでしょうか……すごく励みになります😭してみたされてみた、また書きたいので出すと思います! 楽しみにしてて下さい💞 (2022年2月15日 7時) (レス) id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマト入れないで - してみたされてみたまた出して欲しいです!無理だったらすいません!!お話作るの天才すぎ!!めっちゃいいお話だらけ! (2022年2月14日 22時) (レス) id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマトを入れないで - 私もパーシーと、オリバー大好きだから主さんのお話大好きです! (2022年2月14日 22時) (レス) @page16 id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
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