Shhh…… / Fred ページ33
今日であのむさ苦しい教室ともおさらばだ。夕方だというのに暑さが内にこもって仕方ないので、シャツの第一ボタンを外す。私の気持ちさながらずれ下がったスクールバッグを持ち直して、近道のいつものルートを通る。
──誰かいる。私と同じ高校の制服だ。みんな昼前に帰ってしまったというのに、何で? 訝しみながら近付いていくと、思わず鼻をつまみたくなるような臭気が鼻を突いた。暗がりと夕日に紛れて、赤黒い──血のようなものが、路地裏の建物の合間にべっとりと。
「──あ」
振り返った顔には見覚えがあった。6月という不思議な時期に転入してきたにもかかわらず、日々クラスの中心でみんなを笑わせているフレッドくんだ。
「なんで、それ、なに」
言葉が出ない。私は、彼が「ケチャップ近くに撒き散らしちゃってさ」というのを待っていたのかもしれない。
「A? 人殺しちゃってさぁ──うそうそ、ケチャップでいたずらしてただけ。なーんてのも、嘘。最初に言ったのが正解さ」
「っ、人を……?」
「もち、悪いやつだけな。俺とジョージ──別のクラスだけど、双子の弟──は良い奴をやっちゃったりはしないよ。悪いやつだけ、それも、極端なワル」
だとしても、という反論の言葉は恐怖にかき消されてしまった。この現場を見てしまった私までも処理されてしまうのだろうか。赤黒い血に変貌してしまうのだろうか。
「それよりさ、」
フレッドくんが近付いてくる。虫も殺せないような顔をしているのに、なんで。クラスでの彼の顔と、今のこの状況が脳でゲームのバグみたいに次々表示される。ぜんぜん、重ならない。
「ちゃんと秘密、守ってくれるよな?」
私の背中は冷たい雑居ビルの壁に触れた。すぐ目の前にはフレッドくんの顔があって、いわゆる壁ドンという状態。でも、何も興奮しないし恥ずかしくもない。漠然としつつもきちんと質量を伴った恐怖だけが脳を占有していた。
「──わかりました」
喉から出たその声はまるで私のものじゃないみたいに私の中で響いた。ならよし、と笑うフレッドくん。すらりと伸びた健康的な肌色の五本指で私の頭をくしゃくしゃ撫でる。夏の暑さにやられた頭で見る思考を彷彿とさせる、不思議な空間。
この後、彼の秘密を知ってしまったことにより事件に巻き込まれることになるなんて、その時の私はつゆほども知らなかった。
牙の深さは愛の深さ / George→←あっかんべー、だ / Percy
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狸ノ木(プロフ) - そると。さん» コメントありがとうございます! 私も結構気に入っている話なのでそう言っていただきとっても嬉しいです……! たぶんころっと落ちちゃいますね☺️(そんな機会があればですが!) (2022年4月5日 17時) (レス) @page37 id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
そると。(プロフ) - 最後のジニーのお話...めっちゃ好きです...あんな言われたら落ちるしかなくない...??? (2022年4月5日 1時) (レス) @page36 id: 49e4342c2d (このIDを非表示/違反報告)
狸ノ木(プロフ) - 弁当にトマト入れないでさん» コメントありがとうございます〜!!こんなに素敵な言葉を頂いてもいいんでしょうか……すごく励みになります😭してみたされてみた、また書きたいので出すと思います! 楽しみにしてて下さい💞 (2022年2月15日 7時) (レス) id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマト入れないで - してみたされてみたまた出して欲しいです!無理だったらすいません!!お話作るの天才すぎ!!めっちゃいいお話だらけ! (2022年2月14日 22時) (レス) id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマトを入れないで - 私もパーシーと、オリバー大好きだから主さんのお話大好きです! (2022年2月14日 22時) (レス) @page16 id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
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