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あれから一晩たって、朝を迎えた。
ボロボロになった建物に現れたのは、傘を被り着物を身に纏った、一人の男。
「…瓦礫の上で釣りとは、あんたもなかなか酔狂な男だねぇ、“三天の怪物“殿」
男の声は、文字通り瓦礫の上で釣り糸を垂らしている異三郎に向けられている。
彼のそばには、一箱に詰まったドーナツが。
「で?何か釣れたか?」
「ええ、安い餌の割には。でも逃しましたよ」
釣り竿につけたドーナツには、信女が引っかかった。
彼女はドーナツが好きなのだろうか、一生懸命に追いかけている。
「何だか食するのがもったいなくなってしまって」
「いいのかい?あんな連中を泳がせていては、あんたらを推す幕閣に申し訳なかろう」
「…すでに崩れかけた瓦礫の上で権力争いをするつもりはありません。名門佐々木家もいずれ崩れ去る運命です。ならば使えるうちに餌にしたまで
あの安い餌でこれだけ釣りが楽しめれば十分ですよ。おかげでこの瓦礫の海にもまだ、泥に塗れても足掻く泥魚たちがいることを知れましたから」
「…楽しみは先に取っておくと?」
「いずれまた会うことになりましょう。私たちがこの瓦礫の海を更地に変える時、水を失った魚がどう足掻くか…楽しみですね」
不敵に笑う異三郎に背を向けて去って行く男。
高杉晋助もまた薄く笑みを浮かべ、ゆっくりと歩いて行った。
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作者名:なんなん | 作成日時:2021年6月26日 23時