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第拾伍話 ページ17

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「嘘じゃないですよ、Aさん。」




俺が手を取り、そう述べると彼女は耳まで
赤くし、その状況を受け止めきれていないのか
大きく目を見開いた。

最大限の意地悪だということは百も承知。
”恋人ごっこ”という単語がすらりと勝手に
口から飛び出し、その言葉の回収に自分自身
戸惑っていてもいた。




「それとも、Aさんには想い人が
既にいらっしゃっているのですか?」


「そそ、そんな方はいないのですが
いくらなんでもそれは…!」



少し強めに手を握り直し、真剣な表情で
そう述べるとますます彼女は頬を赤らめ
目線を合わせないようにか下を向いた。



「仕方がありません。そうしましたら、
その件はなしで。残念ですが、他の出版社様に
お世話になることと致しますか。」


「それは駄目です!」


「では、どうします?」



彼女にも代理とは言え責任があるのだろう。
神崎さんの顔に泥はつけられないという彼女の
責任感を悪用しているようで、嫌気がさした。

自分でもなんでこんなことを言っているのか
理解できない。彼女を少しの間だけ独り占めしたい
という子供のような我儘が頭の中を支配していた。



「わかりました… 私のような女でいいのですか?
夢野先生はお顔立ちが素敵ですし、女性のファンも
多いと聞きますが…」


「素敵とは嬉しいですね。しかし、私のようなと
自分を否定的に考えないでください。
このような小生の我儘に付き合ってくださる
貴女は中身も“素敵な”女性ですよ。」




彼女は一つ息を吐き、唇をぎゅっと噛むと
改めてよろしくお願いしますと丁寧に頭を下げた。

さて、恋人とはどうすればいいのか。
自分は乱数のように女性経験が豊富な方ではない。
同年代の男性に比べれば圧倒的に
少ない方だろう。


少し頭の中を整理し、次の行動を考えると
すぐに名案が浮かび上がった。
何せ少し急いで作品を仕上げなくてはいけない。
すぐ会えた方が便利というか、嬉しい。



「では、先程話にも出ていましたが
この部屋の隣が今空室になっています。
Aさんはそこに住んでくださいな。
家賃の件は、小生が負担致しましょう。」


「隣!?
う…っ わかりました。でも家賃は払います。
非常に申し上げにくいのですが
全額は無理なので半額だけでも…」


「律儀な方だ。それでは半額ずつに
致しましょうか。」



彼女は一つ溜息をついた。
俺はそれに気づかぬフリをして、不動産屋に
電話をかけた。



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名前などない - 名前などないは、頑張ったそして神作を見つけた。作者様も見つけた (2018年10月7日 16時) (レス) id: 7d4ac3f345 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬りつ(プロフ) - 全力で応援してます。頑張って下さい! (2018年9月24日 0時) (レス) id: 2be3616bf8 (このIDを非表示/違反報告)
東雲(プロフ) - トールさん» コメントありがとうございます!萌えていただけて大変嬉しいです!◎ 更新頑張りますのでこれからも読んでいただけたら嬉しいです…! (2018年9月9日 21時) (レス) id: ea06f86932 (このIDを非表示/違反報告)
トール(プロフ) - いつも楽しみにしてます!幻太郎推しの私にとっては素晴らしく萌える小説です…!更新楽しみにしてます!(*^^*) (2018年9月9日 19時) (レス) id: 18d4aaf4a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:東雲いずも | 作成日時:2018年8月26日 0時

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