儚い君の後ろ姿 ページ4
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『薬飲んだ?持ってきた?』
「のんでない、もってきた。」
『なんで飲んでないの!今飲んで。』
「…学校ついたらのむから。」
『ダメ、今飲んで。荷物持つから。』
家を出てAが目に入った瞬間から分かるくらい、
明らかに体調が悪そう。
自覚はあるらしいのにほっといているみたいだ。
こうなったAは自分で薬飲むのも保健室行くのも
絶対しない。
でも本人的には無理しているつもりはないらしい。
そこがまあ厄介なところだ。
Aからスクールバックを預かって、
薬のポーチと水筒だけ渡した。
昔からこんなことがよくある。
給食の後に飲まなければならない薬もコソコソと
捨てようとしてみたり、俺がいないと飲まなかったり。
今だって渡せばちゃんと飲むのに。
「おいしくない…」
『薬は美味しさを求めるものじゃないからね。
はい、頑張りました。』
下されたサラサラな髪を撫でると、
気持ちよさそうに目をつむる。
弱っている時のAに無防備な雰囲気が増すのは、
幼馴染で昔から気を許しているからか、
Aの好きな人ですべてを知っている俺だからだろうか。
『早く薬効くといいね。』
「うん、数学あるから、保健室いったら大変だもん。」
『数学なら俺教えるから。無理しないでつらかったら
ちゃんと保健室行くこと、いいね?』
「ん。いく。」
スクールバックは俺が預かったまま最寄り駅まで
歩き出す。
バスは人酔いするから乗りたくないといつも通りの返答。
無理して歩くことに本当は反対なんだけど。
『早く薬飲んでたらもう少し早く効いたんじゃない?』
いつも心配でたまらないんだから、これくらいの小言は聞いてね。
「薬はおいしくないからきらい。」
『だから、薬は美味しさを求めちゃダメなんだって。』
「龍斗だって薬きらいでしょ。」
『好きではないけど飲まなきゃいけなかったら飲むよ。』
「私はきらい。」
『でも飲まなかったら、さ、分かってるんでしょ?』
「嫌なほどわかってる。」
『うん。』
「うん。」
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作者名:しんくれろ | 作成日時:2019年12月5日 22時