第伍話 『鍛錬』 ページ7
『はぁっ……はっ………はぁっ』
幻天屋敷の裏手にある白桜山に、Aの苦しそうな吐息が響く。
屋敷の主にして、元鬼殺隊の柱・露木に拾われてはや二年。
彼女の下で日々、Aは(地獄)の鍛錬をこなしていた。
ちなみに本日の鍛錬は、白桜山を十周と腕立て伏せ、腹筋千回を三セット。そして最後に素振り五千回という内容になっている。
(炭治郎でさえ、こんなキツい鍛錬してなかったぞ!?)
『ほんっと………鬼畜すぎる、でしょ!?』
こんな鍛錬を毎日こなしていたおかげで、あの頃のような惰弱な体から見違える程鍛えられたが………複雑な気持ちだ。
露木の指導で幻天の呼吸の習得は出来たが、未だに最後の型はできていない。
『はっ………はっ、はッ!』
「お疲れ様です。はい、きちんと水分補給してくださいね?」
『あ、ありがとう、ございますッ!』
走り込みを終え、まるで生きる屍かのように屋敷に上がる。
露木は微笑みながら水を渡すと、それをAはごくごくと喉を鳴らして飲み干した。
『ふぅ…………ふぅううう』
「幻天の呼吸は高威力の代わりに体力を激しく消耗しますからね。日々の鍛錬が欠かせません」
『わ、分かってますよ………もう、あんな地獄は見たくはありませんからね』
流石に鬼舞辻無惨と対等で渡り合える程の呼吸だ。
Aが初めて呼吸を使った時、あまりの燃費の悪さに気絶したものだ。
それはもう、指の一本も動かせない程に。
そんなものをポンポンと繰り出せる露木は化け物だと、改めて実感した。
『今では、他の呼吸のように連発は出来ますが……さすがに師範のように四六時中できませんよ。せいぜい半日が限界です』
「ふふ、鍛錬を続ければできるようになりますよ。ほら、証拠に最初の頃よりもできているでしょう?」
『ぐ……そ、そうですね』
「諦めなければ、きっと、いつかは叶います。人の原動力は心ですから」
(まるで炭治郎みたいだな……)
心中で顔をひきつらせながら呟くA。
露木はふと、何かを思いついたかのように顔を上げる。
「そういえば、もう少しで最終選別がありましたね」
『そういえば今年も、もうその時期ですか』
最終選別………二年も修行しときながら一度も行けてない。
「そうですね………Aさん、私と手合わせをしてくれませんか?」
『ふぇあっ!? 私がっ!?』
何かを考えたのか、露木さんが私に向かって微笑んだ。
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作者名:わんフル | 作成日時:2022年4月25日 16時