先輩と後輩、絆と契り(6-6) ページ5
「かはっ……」
「先輩ッ!!!」
もう『神官』の掟など頭になかった。
森から飛び出して、地面に倒れこんだ先輩の傍に跪いた。
「……な、なこ、さん」
「しゃべんな!!今止血を……!」
俺は〈能力者〉であっても〈魔術師〉ではない。
治療の魔法は使えない……つまり、先輩は救えない。
それでもとボロ布や植物のツルを使って懸命に先輩のお腹にできた傷口に押し当てて、止血を試みるものの一向に真っ赤な血は止まらない。
「……は、はは。なんか、……ちょーし、くるう、な」
「しゃべんなって!!」
苦しそうに咳き込む先輩。目の焦点が合わずに朧げに宙をさまよう。
「……やっぱ、なな湖、さん……ッ、とは、……じっ、きょ、…… して、……るとき、……が、おちッ……つく、ね、……」
「……、先輩ッ!!!」
だらだらと血を垂らしながら満足げに微笑んだ先輩は、そのままがくりと力なく土の上に倒れこんだ。
両手が真っ赤に染まる。ぶわりと大量の涙が溢れでて、先輩のシャツにシミをつくる。
ううう、と低く唸って、先輩の血塗れのシャツの胸に顔を押し付けながら泣きじゃくる。
物心ついた時からずっと一人だった俺に、初めてできた友達が、俺より早く、死のうとしてる……
トクン
ふと、頬に感じた振動に、俺は顔を上げて先輩の顔を凝視した。生気のない白い顔と閉じられた瞼はぴくりとも動かない。
それでも心臓はまだ動いてる。生きている。
そのことに酷く安心して、再び顔が涙で覆われた。
まだ助かる。まだ助かる。
「落ち着きましたかな?」
ふ、と。
嗜めるような老人の声に俺は忘れかけていた怒りを思い出した。
「さて、その男が本当に死ぬ前にご決断を」
ふつふつと、煮えたぎる怒りを腹の底でうねらせながら俺は迷わずその小瓶を受け取った。
それをぬーすけ先輩の口内に差し入れ、中の液体を飲ませる。
途端に先輩の体が石化したように固まって、一切動かなくなった。
“ 呪い ”が作用して先輩の体は時間停止状態になったのだろう。
「では、約束通りに〈神域の森〉の開拓許可を」
俺を覗き込みながら、ニヤリと醜く嗤う老人を俺は躊躇なくぶん殴った。
「ええで、好きなだけ開拓せぇよ」
今までずっと押さえつけていた怒りが身体中を埋め尽くす。全身が熱暴走を起こしそうなほど熱く、頭がおかしくなるくらいに脳が痺れていた。
すっかり怯んだ村人を据わった目で射抜くように睨みながら、地面から大木を生やす。
「生きてれば、な?」
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あんぴーなっつ(プロフ) - かおりのさん» コメントありがとうございます!琵琶ちゃぷの話はかなり気合入れたので、感動していただけて嬉しいです!閲覧ありがとうございました(*´ω`*) (2019年9月15日 22時) (レス) id: 236992ae33 (このIDを非表示/違反報告)
かおりの - めっちゃ面白いです!琵琶ちゃぷの所すごい泣けました!全然ゆっくりでいいので更新頑張って下さい! (2019年9月14日 22時) (レス) id: a7a49677e4 (このIDを非表示/違反報告)
あんぴーなっつ(プロフ) - ネコさん» コメントありがとうございます!楽しく読んでいただけて私も嬉しいです!閲覧ありがとうございました(^ω^) (2019年7月16日 16時) (レス) id: 236992ae33 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ - 毎回ストーリーにドキドキしちゃってます!www更新頑張ってください! (2019年7月15日 21時) (レス) id: ab4778a323 (このIDを非表示/違反報告)
あんぴーなっつ(プロフ) - すぷらさん» わっ!コメントありがとうございます!mzmn界隈で見たことのある方から感想いただけて嬉しいです!これからも頑張ります(*´ω`*) (2019年5月27日 14時) (レス) id: 236992ae33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あんぴーなっつ x他1人 | 作成日時:2019年3月18日 17時