文スト劇場 【パート1】

前編 ページ46

昔、昔。ある処に中也と呼ばれる人魚が居ました。その人魚には、兄妹が居ました。


｢兄さん。何か一言｣

｢その一言は恒例なのか？｣

｢多分、太宰さんの入れ知恵でしょうね｣


詳しくは前々回に。弟の敦と妹の鏡花です。勿論、全員人魚です。


｢……普通、姫役って手前(テメェ)がやるもんだろ｣

｢仕様がない。リクエストだから｣

｢鏡花ちゃん、それ以上は云っちゃ駄目！｣


突っ込みが居る事のありがたみを感じます。或る日、人間が海に溺れてしまいました。


｢助けなくちゃ｣


気が付いて助けたのは、末の妹でした。
溺れた女性は着物を着ており、赤色の髪を結っておりました。


｢大丈夫？……意識が無い｣


取り敢えず他の人間が気付く様な場所に着物の女性を寝かせ、鏡花は帰って行きました。
その夜。


｢海にこんな物が投げ込まれたって｣


そう語る敦の手には、防水製の紙があります。その紙には、達筆な文字でこんな事が書かれていました。


【助けて下さり、ありがとうございました。今度お礼がしたいので、是非お城に来て下さい】


｢行ってくるか？｣

｢厭｣


即答でした。しかし返事を書くことも出来ず、誰かが往かなければ駄目でした。


｢……敦｣

｢え？明日は一寸、用事が｣

｢兄さんが往くしか無い｣


こうして、中也が陸に上がる事に。
果たして、無事に帰ってこられるのでしょうか。

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