0-1(日向なつ) ページ1
――私立シャトランジ学園高校。
放課後の教室で、白羽アリスはぼんやりと頬杖をついていた。釣り目がちの大きな黒い瞳、化粧は施されていないながらも健康的に淡く色付いた頬。長く伸びたストレートの黒髪に、カチューシャについた青いリボンがアクセントを与えている。
(……暇、だなあ)
彼女のいる2年Bクラスは現在シャトランジ祭……学校祭の準備中だ。ほかのクラスメイトたちは忙しなく手元の衣装を縫っていたり、カフェで提供する菓子の製作中だったりするのだが、自分の分の衣装を縫い上げてしまったアリスは暇を持て余していた。
もともとアウトドア派で部活動でもバスケ部に所属しているアリスだが、姉であるリカの影響もあって手芸は得意だ。黙々と作業に没頭していたせいもあり、ほかの生徒たちより数段早く作業が終わってしまっていた。かと言って、クラス中が作業を進めている中で一人だけ帰るのも感じが悪い。その結果として、アリスは冒頭の通り頬杖をついてだらだらと暇を潰しているのだった。
(こういうとき、転入生って不便ね。今更あたしが出しゃばるわけにもいかないし、バスケ部はお休みだし、暇だし、帰ったらお姉ちゃんにこき使われるし、……暇だし)
この学校へ転入してきたのは夏……数ヶ月前のことだ。すでに社会人であり、たった一人の家族である姉の転勤が理由だった。その時点で学校祭の準備はそれなりに進んでおり、クラスの友人関係も出来上がっていた。今更やってきた
いじめられているわけでも、孤立しているわけでもない。ただ、少しだけ、居心地が悪いだけ。幼い頃から女の子とおままごとをするよりは外で男の子と駆け回って成長してきたアリスにとって、その居心地の悪さを埋めるための立ち回りは難しいものだった。
「ねえ、糸もうちょいで足りなくなりそうなんだけど。誰か暇な人、買いに行ってきてくれない?」
一人の女子がそう声を張り上げた。暇な人、アリスはまさしくそれだ。応えるように声を張る。
「あたし、衣装できてるし暇だよー。買ってこようか」
「あ、ホント? じゃあアリスちゃん、頼むわ。明日でいいから立て替えといてくれる?」
「ん、了解。糸どれ?」
言われた通りの色とメーカーをメモ帳に書き留め、アリスは鞄を手に席を立つ。
「じゃああたし、それ買いたいし先に帰ってるね。お疲れ様」
「うん、お疲れ〜」
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ユエル(プロフ) - クルルさん» コメありがとうございます!不定期更新ですが頑張りますね(^^) (2021年1月11日 13時) (レス) id: 673d6f73a6 (このIDを非表示/違反報告)
クルル(プロフ) - めちゃくちゃ面白い!!!!サイコーです!!続き待ってます!! (2021年1月3日 23時) (レス) id: 297c8a2c3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユエル×日向なつ x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年5月21日 1時