出会い ページ10
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入学式二日前のある日、Aは学園の図書館で一冊の本と出会った。表紙も中も黒く、それぞれのページには鏡を模した模様が金箔で描かれ、楕円の中にはツイステッドワンダーランドに存在する国名や地名が金色の文字で記されている。
触れた瞬間にAは書物の正体を悟った。自室に戻り、適当にページを開く。選んだ場所は『珊瑚の海』。
瞬きを禁じ、絵の鏡を凝視する。すると黒く塗りつぶされていた鏡の中に魚の動きが見えた。エンドロールを終えた映画館がゆっくりと明るくなるように、見つめるうちに線画に鮮やかな色が入る。
やがて内側から海に呑まれるように本が消え、気がつけばAは海底にいた。砂地や鮮やかな珊瑚をいく筋もの太陽の光が照らし、様々な生き物が自由気ままに泳いでいる。
当てもなく歩いているうちに平らな石の並ぶ場所――おそらく学校だろう――へたどり着く。そこでは数人の人魚たちがタコ足の子供をいじめていた。
「やーい、墨吐き坊主!」
「さっさと拭けよ。足ならたくさんついてるだろ?」
「逃げろ! 墨つけられるぜ!」
「きゃははは! 俺らに追いつけっこないけどね」
どこの世界も同じだ。自分たちと姿が違うだけで、異質な物扱いする。いや、たとえ姿が変わらなくともきっと、何かしらの理由をつけて傷つけるのだろう。
「大丈夫、ではなさそうですね」
と声をかけるとタコ足の子供は短い悲鳴をあげた。Aは驚かせたことを謝罪しつつ、「いつもあんなひどいことをされているんですか?」と訊いた。
「みんなと見た目が違うから……学校でタコの人魚は僕だけなんだ」
「そう……」
「見た目だけじゃない。みんなみたいに速く泳げないし、勉強もできない。みんなより下だから、いつも嫌なことされるんだ」
Aはふと、思い出してこう言った。
「あの子たちの一人、『足ならたくさん付いてる』と言っていましたが、それって君の良いところでもあるんじゃないですか?」
「え?」
「ほら、こっちは腕が二本しかないでしょ? でも君は違う。速く泳げなくても、自在に動く手足がこんなにたくさんある。他の子にできないことが、君にはできるんじゃないかな」
「そう、かな」
「君はあの子たちより下なんかじゃない。ただ『違う』だけだ。『違う』ことは『悪』ではなく、立派な『個性』です」
それに、とAは改めて彼を見て言った。
「私はその姿、かっこよくて好きですよ」
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リー・マキトータ(プロフ) - 珠梨さん» 大爆笑しました🤣 ちなみに読みは『エウシーダ』で、二つのスワヒリ語を合体させた造語です。 (4月1日 14時) (レス) id: 042fe54ac4 (このIDを非表示/違反報告)
珠梨(プロフ) - タイトルを入試だ☆と読んでしまった自分は…… (4月1日 14時) (レス) @page2 id: ac62a72ef1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リー・マキトーマ | 作成日時:2020年2月28日 9時