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+189+老師 ページ44

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自分でも驚いてしまうくらいに弱々しく芯もない声が出た。

でも、それは私の声に違いなくて
無意識に紡いだ言葉なのに訂正する気にはならなかった。
むしろ、よく分からない“安堵”すらあった。


風「…私も全身全霊で励みます」

『そんな顔で言われても、説得力に欠けますね』

「!」

老師(せんせい)なら、もっと自信を持て導いて頂かなくては困ります。』


申し訳なさを隠しきれないその表情に毒をさす。
それでも彼はふふ、と笑ってくれた。

気にする必要は無い、最後の決断を下したのは他ならない私なのだから。
…まぁ、赤ん坊くんには少しくらい気をおってほしい所だが
それこそ期待するだけ無駄だろうし、決めたのなら貫くしかない。


風「具体的な活動は明日からとします。
突然押しかけてしまいましたし、今日のところはお暇しますね。」


彼も帰ってくるかもしれませんしね。
そう付け加えて彼は一例ののち、トントンと飛ぶように
縁側の先へと立ち去っていった。

彼が居なくなった先を数秒とりつかれたように見つめていれば
玄関先から音が聞こえ、はっと意識を戻した。

いけない、夕飯の準備やら選択の取り込み、色々やることがある。


正座のまま座り続けていた膝を起こし、縁側の先の洗濯物をしまい込む。
布を抱え慌ただしく室内に駆け込んだ時、今の戸が開かれた。

顔をのぞかせた存在に目を向けたとき、思わず「え、」と声が漏れた。


『い、いかがなさったんですか…その傷。』

「…何でもないよ」

『……。』


その存在は家主であることには相違ない。

しかし、昼前に分かれた時とは打って変わって
その端正なお顔や四肢の至る所に汚れやかすり傷がたくさん。

思わず呆然とその姿に釘付けになってしまうが
その姿から連想し、湯浴みの準備が済んでいないことを思い出す。


『お風呂、沸かしてきます!』

「良い。自分で入れてくるからそっちを済ませな。」


サッサと踵を返し、浴室へ向かわれるその背に小さく謝る
その声が聞こえていたのか、恭弥さんは少し歩みを緩め振り返った。

何を考えていらっしゃるのかは分からないが
私に一瞥視線を向けた後、その目は少し横へズレた。
視線を追えば、そこにあるのは卓袱(ちゃぶ)台とその上の2つの湯飲み


『あ…。』


それは私が無断で誰かをあげていたことをさし
家主である恭弥さんが不快に思っても仕方のないことだった。

謝罪の言葉を述べようと少し口を開けば、視線は私に戻された。

+190+自己決定力→←+188+甘受する



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睡-スイ-(プロフ) - 阪サッカーさん» お返事遅れました、嬉しいコメントありがとうございます!地道に更新頑張らせていただきます! (2020年7月9日 17時) (レス) id: deb52841c7 (このIDを非表示/違反報告)
阪サッカー(プロフ) - 面白くて、読み応えがあって、何より続きが楽しみです。お身体に気をつけて、無理しない程度に頑張って下さい。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: d96a890ddc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:睡-スイ- | 作者ホームページ:https://twitter.com/sleep_d_urtk?s=09  
作成日時:2020年5月3日 14時

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