+73+感情 ページ26
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side T.Y
「幸せ」と口にした巳國はどこか少し、悲しげにだが本当に笑った気がする
悲し気な相手に対して可笑しいかもしれないが
俺はそれを見て嬉しくなってしまった。
もともと感情を表に出せないのか、表情の変化が少ない
笑顔は大体作ったように口角を上げ、目を細めるだけで
そこに感情が伴っているように思えないもので
見ていて苦しくなるような、悲しくなるような…「痛々しい」っていうヤツなのか?
…まぁ、それ以前に巳國が表情を変えること自体がレアなんだけどな
たまたま入って学校が一緒で、たまたま同じクラス、たまたま隣同士
偶然ばっかで、知り合ったわけだけど
関わりあう気がない相手に対してこっちの興味は心に取り残されたまま
クラスで最初の自己紹介、隣同士ってことで巳國にとっては多分強制で
お互いを知ったわけだけど、それ以降はチラ見するくらいで。
話しかけたりとかは嫌がるかなって思ったのと俺自身も色々あったりしたし…
その頃からずっと、いつも一人で自分だけの本の世界に籠っていた巳國は
よく視界の端に映り、そのたびに瞬間的に意識の中心にいた。
あぁ、また一人でいるな。とか
アイツ何読んでるんだろう?とか
寂しくねぇのかな?とか
人と話しているときにもパッと、その瞬間にそう思って
また正面にいる会話してた相手に意識を引き戻される…なんてこともよくあった
今目の前にいる巳國はどうにも感情的…いや、感情的っていうとオーバーか
正確に言うならば、視線の動きとかが自分の意志や感情が伴っているように思えた。
しかし、それは単純に「いいこと」ではなく
感情はどちらかというとマイナスな印象を受けるもの
今も視線を落とし、少し眉間に皺を寄せている
視線を落としているため少しの身長差でも顔に影が差して見える
覗き込んでいるわけでもないので気のせいかもしれないが
その様子は、巳國が泣きそうな表情をしているようにすら見えた。
彼女の変化にどこか喜んでいた自分
だが、どうしてもプラスの感情が100%の彼女を見ることは叶わない
何かできないのか、考えたけど答えは出なくて悔しくなった。
そうこうしている内に巳國は一度ギュッと目を閉じて
意を決したように目を開けると、それにつられる様に口を開いた
『山本くんは、私に昔何があったかご存知なんですか?』
開かれた目と、少し顰めた様な表情は
どこか悲しげで辛そうで、またマイナスな感情を微かに伴っていた。
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作者名:睡-スイ- | 作者ホームページ:https://twitter.com/sleep_d_urtk?s=09
作成日時:2019年9月23日 16時